白塔と黒田(いのけい)

 
 あの人の元でこのまま過ごすのも、悪くはないな。取調室のガラス越しに不敵に笑う上司の姿を見て、白塔はふとそう思う。
 自らの能力が正しく評価される環境、口は悪いが有能な上司、勤勉な教育体制。……白塔は知らず知らずのうち、捜査一課という職場を気に入っていた。はじめは興味だけで警視庁の門戸を叩いたというのに、いつの間に絆されたのだろうか。それはきっと、黒田という先輩に目をかけられた瞬間であり、白塔が初めて、彼から謎かけを仕掛けられたその時なのだと思う。

 ーーお前には、ちと簡単すぎたか

 黒田がそう言って笑った姿が、白塔が初めて見た彼の笑顔だった。白塔の能力を、恐らく本人よりも正しく推し測った彼は、身の丈そのものの評価をして見せたのだ。秀才ゆえに過大評価や過小評価をされがちだった白塔は、たったそれだけで簡単に黒田に付いていきたくなった。
 これが黒田の全てではないことは分かっている。白塔が秀才であるからこそ、これだけ慕うことが出来ているだろうことも。でも。
 あの人がずっと歳を取ったあと、今度はこちらから飲みに誘いたい。すっかり成長して、彼の教え子としてよい姿を見て貰いたい。そう思った瞬間から、白塔にとって黒田は、なくてはならない存在になったのだ。

(期待には、しっかり答えないとね。)

 ーーいずれ教える。その時は、俺に付け。黒田の話をもう一度脳内に巡らせる。彼を裏切るという選択肢は、存在し得無かった。