餞自陣ss「また四人で参りましょう」


「いらっしゃい!」
 開かれた店先、アイスが冷やされた冷凍庫の前に彼は立っていた。少しでも涼しい方向へ行こうと言うのだろう。珍しく1人の日下はぴったりと冷たいそれに張り付いて、それでも高らかに挨拶を返した。ここは古館駄菓子屋。寂れた商店街の一角で、友人を迎えた美都は笑顔を溢した。
「美都!今日も暑いな」
「そうだね〜…冷房ちゃんと付けとかないとチョコが溶けちゃうかも。アイスくらい奢ってあげるから入っていいよ」
「え!ほんとか!」
「こんなことで嘘つかないよ、私。どうせ高いものとかないから」
 店内から手招きすると、日下はパッと笑顔を浮かべて、冷凍庫の箱を開ける。もわりとした冷気がほんの少し足元を冷やした。彼は軽く物色をしたかと思うと、袋包みの棒アイスを2つ掴んで見せた。
「折角だから一緒に食べようぜ」
「え?まあ、一緒に食べた方が美味しいって理屈はわかるから、うん、いいよ」
 よしと頷いた日下は、勝手知ったる様子で入り口に程近い店内のベンチに腰掛けると、美都にソーダ味のアイスを渡し、自身はオレンジ色の包装紙をペリペリと剥き始めた。棒が2つ付いたそれは2つに割って分けることが出来るもので、確かに良く皆で食べていたものだ。
「どうして2つなの?」
「ほら、いつもは4人だから、どっちかしか食べらんねーだろ?たまには両方食べてみたいじゃん?」
「強欲だね」
 パキリ、と手元で2つに割る。いつも通りしっかり真ん中で割れたそれを、日下と美都は手を交差させて交換する。溶け始めた片方を急いで口に含めば、仄かな甘さと舌を刺す痛みが広がった。汗をかき始めたもうひとつも慌てて舐めると、2つの味が絡み合って普段とは違う味がした。
 やっぱり2つ同時に開けるものじゃない。ちらりと日下を伺うと、神妙な顔をして2つの棒を両方口に突っ込んでいた。
「2つ会わせたらどんな味かと思ってたけど……結構いけるな!」
「食べ辛いってのは明確にあるけどね。……でも、確かに、悪くないかも」
「今度あいつらにも食べさせて見ようぜ!」
「ふふ、次はお金、取ろうかな?」
「ぐ……いや、俺も貰いっぱなしにはならないからな!払ってやるぜ!」
 3年生の夏、セミの声と共に2人の笑い声が閑散とした商店街に響く。いつもと違うアイスの味は、暫くは2人だけの秘密だ。