やみへのたびだち 02




なぜか垂直の形で駅にあたるところに到着したらしい地下鉄
車内でもみくちゃにされたために所々体を打ち付けて、鈍い痛みを訴えるところをさすりながら外に顔を出す
底も天井も見えない先に繋がる長い長い螺旋階段




「ここが、異界ぃ!?」




ユウくんの声が果てなく広く響き渡った















気が遠くなりそうなほど長い長い螺旋階段を、途中途中休憩と説明を挟みながら登って見つけた出口
そこを出たわたしたちを迎えてくれたのはどこか見覚えがあるような団地、マンションが立ち並ぶ住宅街にちいさな公園

……に見える、植物や虫の塊




「ムリムリきもい!ここやっぱり異界だぁ!!」




わたしもムリムリって叫びたい。

だがリサさん曰く、外敵に値するような氣(……氣?)はないらしいので離れすぎない程度に分かれてこの街(……街?)の散策をすることに
色々と置いてけぼりをくらって意気消沈するわたしに反比例して、アイちゃんとユウくんが意気揚々と散策に出ていく
その姿を見て、何もしないのも居心地が悪かったのでない気力を振り絞って誰かしらが視界に入る程度の距離を保ちつつ、散策を行うことにした




「……メガネ、しようかな」




散策するといってもわたし自身には特に目的も目標もない
双子に付き合ってご両親の痕跡を探す……のは良いとして、ブックカバーの写真以外になんの手がかりも渡されていないこの手持ち無沙汰感
むしろわたしを取り巻く環境を持て余している感。異界ってなんですか、それって美味しいんですか、状態だ

とりあえず、でカバンからメガネを取り出す
探しているふりというのも、まぁ……大切だろう

というか、帰れるのかな。わたし。




「#name#さん!こっち、こっちきて!」
「ユウくん?はーい、今行きまーす」




メガネのおかげで視界良好、カビ色の壁に見えていたものが植物の蔓の集合体である様をしっかり認識しながら、ユウくんの下へ行く

結構な樹齢の木の幹ほどの太さを象っている蔓の集合体の前にユウくんとアイちゃん、リサさんが集まっていた
これこれ!とユウくんはその蔓の集合体を指差す
やけに興奮した様子で、進む足と反比例する形で気持ちが後退した




「あれ、#name#さんメガネ?」
「わたし目が悪くって。んで、それがどうかした、の」
「………」




指さされた場所にいたのは、人だった
蔓に絡まれた男性だった

男性が首を上げるのに合わせて、ガサリと蔓が音を立てる

目があった、とても綺麗な青色の鋭く無感情な目だ
片目サングラス、フェイスペイント……どう見ても不審者だ。関わってはいけないタイプだ。
速やかに目をそらした




「なんかこのおじさん、頭おかしくって」
「アイちゃん、言っていいことと悪いことがある。特に本人の前では気をつけるべきだ」
「え、えっとね、この人も誰かを探しているみたいで……」
「探してるの?これで?リサさん、この人どうなの?」
「悪い人じゃない、とは思うんだけど……ね」




これには流石のリサさんも苦笑い
当たり前だ。人探して蔓に絡まるなんて常識的にありえない、いったいなにをどうすればこんな器用なマネが出来るのか。異界だからか。

湧き上がる疑問に思わず顔が歪み失礼な言葉が口から出るも、男性は気にした様子はない
むしろこちらの話が聞こえているのか……そんな疑問が出るくらいに無反応で、ただただ#name#の顔を凝視していた




「……なんかゴオオオオって音しない?なんの音?」




ふと、耳に入った妙な機械音
聞きなれないものだったが、なにか大型のものが風を切りながら進むような……そう、飛行機が助走をつけるときのようなものに似ている気がした
それが上空から聞こえるように感じて、視線を空へと向けた
わたしに釣られてか、身動きの取れない男性以外が空を見上げる

遠くに変な飛行物体があった




「なんだろ、あれ……」
「乗り物みたい」
「じゃあ人がいるってこと?」
「いいえ」




ユウくんの言葉を遮って、リサさんが断言する




「この悍ましい氣の流れは……人なんかじゃない」




その言葉に積み上がる警戒心
全員が注視するそれは、ひり出すようにナニカを落としてきた




「ば、爆弾!?」
「みんな走って!」
「え、あ、ま……っ!?」




目の前には走るみんなの背中
なにかを叫ぶ前に襲ったのは落ちてきたナニカが巻き起こした衝撃波
巻き上がる砂埃にみんなの背中は視界から消える

それは、みんなとはぐれたことを意味した