私の役職は副長補佐。ゆえに職務中はほとんどの時間を直属の上司にあたるトシと共に過ごしている。通常業務である市中見回りも大抵はトシと行うのだが、本日彼は非番。そんな時、彼の代わりとなるのはいつも縁側で怠けている総悟だ。今日も白昼堂々アイマスク片手に居眠りしようとしていた総悟に声を掛け、見回りへと出向いていた。


「姐さん、背負ってくだせェ」
「我儘言わないで歩いてちょうだい」
「へーい」


いつものように甘えてくる総悟の背中を軽く叩き活を入れるが、姿勢こそ正すもやる気のない返答をし面倒そうに歩く。
半ば無理矢理連れ出したようなものだから、致し方ない…なんて思ってしまうあたり、やはり私は総悟に甘いみたいだ。


「そう言や、土方さんに何か言われやした?」
「なにを?」
「髪型のこと」
「あぁ、それならその日のうちに言われたわ」
「でしょうねィ。野郎は姐さんにゾッコンだから」


総悟をちらりと一瞥すれば「分かりやすいったらありゃしねェ」と呆れた様子で笑っていた。
惚れた腫れたなどは、総悟の単なる揶揄であって実際は関係ないと思う。事実、トシは真選組の頭脳と言われているだけあり、総悟に劣らぬ鋭い洞察力を持ち合わせている。ふまえて、態度には出さずとも常に隊士等のことを気にかけている。
だからこそ理由を聞かれることは想定していたし、それに対し予め返答を用意しておくことが出来た。


「姐さんは、土方さんのことどう思ってるんですかィ?」
「そうねぇ…職務に忠実で、情に厚くて、二枚目で、煙草とマヨネーズ中毒であることさえ省けば、申し分ないほど出来た人なんじゃないかしら」
「それってまさか野郎のこと」
「あくまで彼をどう思っているのかであって、決して恋情ではないわよ」
「そうですかァ…」


私の言葉を耳にした総悟はまだ何か言いたげな表情をするも、自身を納得させるかのように呟いた。
ここまで褒めてしまえば勘違いするのも無理はないだろう。けれど今私が口にした言葉に、嘘偽りなどない。
例えば、もしも私が普通の町娘としてトシに出会っていたのなら、私はきっと彼に好意を抱いてしまうだろう。それほどまでの魅力を持ち合わせた人だから…
しかし、それは所詮例え話であって現実は違う。


「あっ、旦那じゃねェですか」
「おう、総一郎君に、名前…」
「なっ…」


突然、総悟が口を開いたかと思えば不意に名前を呼ばれた。その声の先に目を向けたと同時に、私の心臓が嫌な音を立てる。
それもそのはず、前方に居たのはつい先日一夜を共にした相手である、万事屋の坂田銀時だったから。


「総悟でさァ。てか、旦那と姐さんって知り合いだったんですかィ?」
「あ、あぁ、飲み友みたいな…なぁ、名前?」
「えぇ、そうね」
「へぇー、そりゃ知りやせんでしたァ…」


動揺の色を隠せない様子の万事屋さん。どうやら彼は嘘をつくのが苦手らしい。その不自然すぎる言動に、私の隣に居る総悟は何かを察したようで、見らずとも言葉だけでニヤけているのが分かる。

さて、この場をどう掻い潜ろうか…


気まぐれな神様の悪戯


20171201


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