「まさかあなたが、総悟と知り合いだとは思わなかったわ」
「まさかとは思ったが、マジで名前が真選組だったとはな」


昼時、街中を一人で歩いていた名前を偶然見かけた俺は、彼女を呼び止めファミレスに立ち寄っていた。話題は勿論、先日見回り中だったらしい名前と沖田君に出会した時のこと。


「驚くのは無理もないでしょうけど、嘘をつくのが下手すぎるわ」
「仕方ねぇだろ、あんな状況誰だって動揺するっつーの」
「だったら下手に喋らず、私に任せてくれれば良かったのに」
「いや、任せるも何もお前の事全然知らねぇんだけど…」
「あぁ、それもそうね」


名前は納得するなり目の前のコーヒーカップを手に取り、そっと口をつける。

街中で出会すのは想定内だとしても、流石に沖田君と一緒に居るとこに出会すとは思いもしなかった。
けれど名前の言いたい事は分かる。俺も沖田君に弱味を握られるのだけは御免だ。面倒事になんのが目に見えてるからな。


「何が知りたい?」
「はっ?」
「私のこと。何も知らないんでしょう?」


ソーサーに置かれたカップがカチャリと小さな音を鳴らし、突然口を開いた名前は言葉と共に真剣な顔をこちらに向ける。
全然知らないと言った俺に対し、どうやら彼女は真面目に答えてくれるらしい。


「あー、出身は?」
「江戸」
「へぇー。彼氏は?」
「いない」
「だよなー。スリーサイズは?」
「…あなたは馬鹿なの?」
「男っつー生きもんが馬鹿なだけであって、俺は決して馬鹿じゃねェよ」


呆れた様子で大袈裟な溜め息をついた名前は、再びコーヒーカップを手に取る。
一応真面目に聞いてんだけど、流石にスリーサイズまでは答えてくれねぇよな。まぁ、3度も見てんだから聞く必要も無ぇけど。
さて、そろそろ本題に入るとするか…
意気込むように食べかけの苺パフェを掻き込み、今度はこちらから真剣な表情を名前に向けた。


「そんじゃあ遠慮なく聞かせてもらうけど、あんな依頼をする理由は?」
「そうね…自身の生存確認のため、かしら」


ほんの少し間を置いた名前は、伏し目がちになって静かに言葉を発した。


「そんな相手、俺でいいのか?」
「何でもしてくれるのが、万事屋さんでしょう?」


彼女の発した言葉の意味が、俺には十分理解出来た。それは俺も同じような人間だったから。

名前が万事屋を訪れるのは、真選組でデカい事件が起こった後。初めて依頼に来た時もそうだった。2度目は偶然だと思い、それは3度目で自信に変わった。
生と死の間で行う命のやりとりは自分を見失いがちになる。生き残った者は仲間の死を受け入れ、その屍を越えてでも前に進まなければいけない。
そんな生きた心地のしない場所で自分を維持することがどれ程の苦痛か、それは嫌でもよく知っている。

理由を知ってしまった以上、それを自分と重ねてしまった以上、やっぱり放ってはおけそうにない…


「じゃあ最後に、経験人数は?」
「あなた、やっぱり馬鹿なのね」


類は友を呼んだ


20171206


NEXT/BACK