昨晩、「お妙さんと行く予定が行けなくなった」と落ち込む近藤さんからペアの映画鑑賞券を貰った。
貰ったは良いが、一緒に行く相手など俺にはいない。しかも内容は恋愛ものらしく、どうするか悩んだ末に名前を誘ってみることにした。


「名前、一緒に映画見に行かねぇか?」
「えぇ、いいわよ」


断わられるだろうと思っていたが意外にもあっさりと快諾してもらえ、仕事が終わり次第出掛けることとなった。

普段隊服姿しか見ないせいか、淡い色の着物を身に纏う名前の姿は妙に新鮮で、映画そっちのけで見入ってしまいそうになる。そう思いながらも緊張していたのは始めのうちで、恋愛映画だけあって感動的な内容に、終盤は涙を堪えるのに必死だった。

放映後隣に目を向けると、名前は小さく鼻をすすりながら目元をハンカチで押さえていた。


「お前、泣いてんのか?」
「別に、泣いてない…」


否定するも見事に鼻声で、思わず笑ってしまった俺に対し、彼女はハンカチを少しずらし赤くなった目で軽く睨む。


「トシだって泣きそうじゃないの」
「お、俺は、目にゴミが入っただけだ」


そんなやり取りをしながら映画館を後にし、すっかり涙も乾いた頃、屯所へと帰る道のりで「何か食べて帰らない?」と言葉を掛けられ、俺達は行きつけの居酒屋へと向かうことにした。


「名前が涙脆いとは知らなかったな」
「あら、人のこと言えないでしょう」
「だから俺は目に…」
「ゴミが入っただけなのよね?」
「お、おう」


名前はグラス片手に「子供みたいな言い訳ね」と軽く笑い焼酎を飲む。
感受性が低い人間なんだとばかり思っていたから、彼女が映画を見て感動するなんて本当に意外だった。驚きもしたがどこかホッとしたのは、自分と似たような感情が見受けられたからだろうか。


「ねぇ、ふと思ったんだけど…」
「ん、どうした?」
「私のことあまり知らないのに、よく好きになれたわね」


料理をつまんでいた名前が箸を止め、不意に漏らした言葉を耳にして、反射的に噎せてしまう。
以前、俺が想いを伝えた事を話題に出すなんて予想だにしなかった。けれど戸惑ったのはほんの一瞬で、自然と口は言葉を紡いだ。


「そんなもん、好きになってから知って行きゃ良いだけだろ。それに知らなくとも、魅力がありゃ自ずと惹かれんだよ」
「ふふ、トシって顔に似合わずクサいこと言うのね」
「なっ、クサくはねェだろ」
「でも、それも一理あるかもしれない…」


今日の名前は表情豊かで、いつも以上に輝いて見えた。
たった数時間だけだが、同じ時間を、同じものを共有することの楽しさや喜びを、俺だけでなく彼女も感じてくれていればと切に願う。
そして名前のことをひとつずつ知り、俺のこともひとつずつ知ってもらえればいいと思った。


君の涙は確かに甘い


20171215 Title by恋をしに行く


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