「親父、いつもの」
「あいよー。名前さんは?」
「私もいつもので」


昼食をとるために向かった馴染みの定食屋で、いつも通りの注文をし、料理が出るまで真面目に仕事の話をしていた俺と名前。
程なくして彼女の隣に腰を下ろした来店客の、「親父、いつものー」とどこか間の抜けた、そして反射的に舌打ちをしたくなるような不快な声が店内に響く。


「あら、久しぶりね」
「おー、名前。と、隣に居んのは…あぁ、多串君」
「多串じゃねぇ、土方だ」


不快な声の主は、犬猿の仲である万事屋。どうりで虫酢が走るわけだ。舌を鳴らしヤツから顔を背けた俺は、新たに取り出した煙草に火を点ける。


「調子良さそうだな」
「えぇ、お陰様で」
「銀さん、名前に会えなくて寂しいんだけど」
「そう、それは残念」


どうやら名前は万事屋と知り合いらしい…
つうか、いつから知り合いなんだ?第一接点なんてあったか?
疑問に思い2人の方を見れば、普通に会話を交している。
ただの友人、だよな…気にはなるが、そんな野暮なこと聞くわけにはいかない。呆気にとられていれば、話し途中の万事屋と目が合い、ヤツはふんっと鼻を鳴らす。


「何だよその顔。瞳孔かっ開いてんぞ」
「うるせェ、余計なお世話だ」
「あ、もしかして多串君嫉妬してんの?」
「なっ、するわけねぇだろ。茶化してんじゃねぇよ!」
「あぁ、そうですかぁ。どーでもいいから、テメェは黙って犬の飯でも食ってろ」
「テメェこそ、黙ってさっさとその下手物食いやがれ」


正しく売り言葉に買い言葉。いちいち突っ掛かってくる万事屋に対して、俺も負けじと言い返す。
言い合いを続けていれば、間に挟まれ黙っていた名前が、突然クスリと笑い口を開いた。


「ふふ、あなた達って仲が良いのね」
「「全然ッ!」」
「ほら、息もぴったりじゃない」


見事にハモり、互いに睨み合っていれば、その様子を見た名前は更にクスクスと笑う。彼女の笑う姿が見れるのは良いことだが、この場に万事屋が居ることはどうにも気に入らねぇ。
そんな苛立ちを抑えるため、無心でマヨ丼を掻き込んでいると、突然内ポケットから携帯の着信音が鳴り、席を立つ。

着信は近藤さんからで、攘夷浪士等が街中でクーデターを起こしたらしく、すぐに向かってくれと緊急を要する連絡だった。


「名前、緊急要請だ。行くぞ」
「えぇ、分かった」

「おい、大丈夫なのか?」


レジで支払いを済ませ店を出ようと背を向けたが、背中越しに万事屋の声が耳に届く。
野郎の言葉に反応し、振り返った俺が目にしたのは、いつになく真剣な表示で立ち上がった名前の腕を掴む万事屋と、「大丈夫よ」と微笑みかける彼女の姿だった。

2人のただならぬ雰囲気に、忘れ掛けていたわだかまりが、ずっしりと胸の奥底に沈んで行く。


枯れた花の瞳孔


20180108 Title by花洩


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