ダブルクロスしようぜ!
「(黒塗りの車が通り過ぎると信号が青になった瞬間に隣を向き)ほら、キク。次はあそこのスーパー。急いで急いで」
「待ってください、老体に急ぐのは酷です(と言いながらも小走りでギルベルトの横を歩く)」
「今日は特売日で肉も魚も半額近く安くなるんだからすぐ売り切れちゃうんだからな。2人いればおひとり様限りの商品もたくさん買える!(拳をぐっと握り)」
「ギルベルト君ったら完全に主婦ですねえ……しかし、私は食べることが出来れば携帯食料で構いませんよ?(くすくすと笑いながら)」
「それが駄目なんだよ!(びしりと指差し)家に居る時はちゃんとまともな飯を食べる!出掛けるならせめておにぎりがサンドイッチ!携帯食は化学調味料入ってんだからあんまり体に良くないんだからな!」
「……どうしましょう、私今までの12年間化学調味料で埋まっていますよ(思わず真顔)」
「だから身長伸びないんだよ(釣られたように真顔)」
「身長は関係ありません(思わず突っ込み)」
「いやいや関係が……、(ぴたりと歩道の真ん中で立ち止まり)」
「……ギルベルト君?」
「……ルッツ。ルッツの匂いがする(はくはくと小さな息を吐いて)」
「ルッツ?……前に言っていた弟ですか?」
「っつ!(弾かれるように足を動かし匂いの元へ駆け出す)」
「!!ギルベルト君っ、待ちなさい!ギルベルト君!!(一瞬反応が遅れてギルベルトの後ろを追走する)」
「どこだ、どこに……ルッツ!(人混みをかき分け辺りを探す)」
「だから、待ちなさいと……ッ、ギルベルト君!戻ってきなさい!」
「!!(匂いを強く放つ方に振り向き)……ハン、カチ?(木に括りつけられている赤黒く染まったハンカチを見つめ)」
「はぁ、はあ……(膝に手を当てて肩で息をし)……嵌められましたね」
「っつ、(その場に崩れ落ち)…ルッツ、どうして……っ(項垂れ、地面に拳を打ちつける)」
「……(ポケットから手慣れた様子で手袋を取り出すと、慎重にハンカチを取り保存袋に仕舞い)ギルベルト君、予定変更です。……喫茶店に行きましょう」
「……(ゆっくりと顔を上げ)」
「……カークランドさんにこのハンカチを調べてもらいます。彼ならば、或いは何かわかるかもしれない」
「……ほんと、か?(キクの言葉に希望を見いだせたのか生気の宿った表情に戻り)」
「あくまで可能性です。……彼の頭脳以外、今は頼れないでしょう。生憎、私もこれだけで情報は出せませんから(悔しさを滲ませるように苦笑を浮かべ)」
「(ゆっくりと立ち上がりキクと視線を合わせるとこくんと頷き)なにか分かるなら……行こう。プライベートアイへ」
「ええ。……弟さんが見つかるといいですね」
*
【数十分後、喫茶『プライベートアイ』】
「(ドアベルが鳴る音に振り向き)いらっしゃいませ」
「夜分遅くに申し訳ありません、営業時間は……」
「アルフレッド、プレートを裏返して来い(顎でドアの方を指し)」
「ん?はぁい(掃除をしていたモップを壁に立て掛けるとドアの方へと走っていく)」
「……(下唇を噛みながら押し黙っている)」
「情報屋がこちらに依頼とは珍しいな。バイルシュミットの弟関係か(ギルベルトを見つめながら)」
「……よくお分かりで。報酬は弾みます。なんなら、しばらくの間無償で情報を提供しましょう(普段の柔和な笑みを消しながら)」
「それは有難いことだな。…さて、俺はどんな仕事をすればいい?生憎力仕事は守備範囲外だ、アルフレッドに頼んでくれ」
「呼んだかい?(看板をひっくり返して戻ってきながら)」
「残念なことに力仕事ではないですよ。それならギルベルト君にやらせます。……これを(先程のハンカチの入った保存袋を取り出しながら)」
「随分と趣味の悪い染物をしているが……これは何処から?(袋ごと受け取りながら)」
「ここから少し離れた樹木に吊るされていたのです(コツコツとテーブルを細い指で叩きながら)」
「……とんだ小細工だな。バイルシュミットの弟がやったのか、はたまたこのハンカチの主の犯行か……(手袋を付け袋からハンカチを取り出しながら念入りに見つめ)」
「何かわかるか?(不安げな表情を浮かべ)」
「この血はバイルシュミットの弟のものではない。おそらくジャーム化した人間の血だ。だがハンカチからはそのジャーム化した人間ともう2種類の匂いもするな」
「2種類の匂い?(全員分の飲み物をトレイに乗せて運びながら)」
「1つはおそらくバイルシュミットの弟のものだと思われる。もう1つはこれの主のものだろうな(眼鏡を指で押し上げ)…となるとバイルシュミットの弟はこのハンカチの主と共に行動している可能性も考えられるな」
「誘拐された、と考えることが妥当なのか……しかしジャーム化した人間の血が付いたハンカチにギルベルト君の弟の匂いが付着している……?(唇を撫でながら)」
「ルッツが……誘拐……(顔がみるみる青ざめていく)」
「ぎ、ギルベルト!?大丈夫かいっ、ほら水!水飲んで!!(慌てて水の入ったグラスを押し付ける)」
「あ……ありがとな、アルフレッド(水を受け取ると力なく微笑み)」
「しかし、……これでギルベルト君の弟がオーヴァードと関りがあるという可能性が高くなってきましたね」
「可能性は色々考えられるが情報量が少なすぎる。……しかし分かることはこのハンカチの主、またはバイルシュミットの弟自身は何らかの理由でこちらとは接触したくないということだ」
「……そうですね、まだ早合点はよくない。カークランドさん。助かりました」
「いや、こちらもあまり役に立てなくてすまない(懐からタバコを取り出しライターで着火する)」
「そこまで分かればありがたいですよ。……失礼(同じように煙草を取り出すがライターがないことに気付き)……カークランドさん、ライター借りていいですか?」
「……ん、(何かを思案すると口にタバコを咥えることをジェスチャーで示し)」
「?……あぁ(意味を理解すると煙草を咥えてそっとアーサーに顔を近づける)」
「(近付いてきたキクのタバコの先端に自分のものを合わせ)…ホンダ、お前まで気を詰めると辛くなるぞ(ふーと煙を吐き出し)」
「(火が灯ったことを確認すると薄く煙を吐き)……おや、気を詰めているように見えてしまいましたか?修行不足ですねえ(にっこりと微笑み)」
「お前にしては珍しく…そうだな、焦っているとも表現出来るか。そんな感じがした。バイルシュミットが心配なのは分かるが保護者は常に気を保たなくては何も指し示すことが出来ないぞ(タバコを咥え直し)」
「……(驚いたように一瞬目を見開くとふわりと笑い)初めてなんですよ、記憶を保持してから家族と呼べるほどに近しい子がいるのは。だから、気が急いていたのかもしれないですね」
「なるほどな。……今や俺もその気持ちは分からなくもない立場だな(アルフレッド達の方を見つめ)」
「おや、感情の薄い支部長殿も弟子を得て心境の変化がありましたか?(茶化すように煙を吐き出す)」
「あれらの存在も今や俺のライフワークの中に含まれているからな。…居なければ調子が狂うと言ったところか(顎に手を添えて)」
「ふふ、それはそれは。……大事にされているのですね、良い傾向ですよ(くすりと笑みを零すと携帯灰皿に灰を落とす)」
「……(黙ってキクを見つめたまま備え付けの灰皿にタバコを置く)」
「……?(微笑んだままの表情で首を傾げる)」
「いや、大事にしてるという表現をあれらに使うのならそれはホンダ、お前にも使うべきだなと(ふっと笑みを浮かべ)」
「……!!(ストレートな物言いに目を丸め)あ、貴方時々本当に心臓に悪いことを言いますね……」
「なぜだ?俺は自分の思ったことを言った迄だが(いつの間にか距離を縮めたのか不思議そうに顔を覗き込み)」
「(潤んだ瞳を何度か瞬かせ)……建前のない、本音だけの言葉に慣れていないのです(指で挟んでいた煙草を灰皿に押し付けながら視線を誤魔化し)」
「……成程。興味深いな(好奇心の隠せない光を宿した眼差しで見つめたまま壁に追い込み、顔の横に両手をつく)」
「っ、……な、にをする御積もりで?(強張った笑顔でアーサーを見つめながら)」
「おかしな話だ。先程お前には大事にしてると話してはいたが同時に別の感情をお前に抱いていることもある。……そんな矛盾が果たして、どうして起きるんだろうな(キクの顎に指を添えこちらと目が合うように引き寄せる)」
「別の、感情……それ、はどういう意味合いを込めていらっしゃるのか……(軽い力でも動くことが出来ずにアーサーの瞳を見つめる)」
「それがどの言葉に当てはまるのか分からない。…分からないとは、なんとももどかしいものだな(額を合わせ鼻先がつく距離で見つめたまま)」
「彼の天才ですら答えを弾き出せないのなら、凡人の私には答えることは出来ませんよ……(翡翠色の瞳に吸い込まれるような錯覚を覚え)」
「お前が言うには俺には人よりも感情の色とやらは薄いらしいな。だったら…ホンダ、お前なら分かるんじゃないか?(両手で顔を包むように頬に手を添え)」
「……参考までに、私にどういった感情をお持ちで?(頬に熱が集まるのを感じながら微動だにせず)」
「信頼、同調、興味、親近感……それにああ、焦がれとやらか(唇に軽くキスを落とし)」
「ッ、(目を見開き)も、うキスまでしてるなら……親愛の情じゃないのですか?(首まで真っ赤になりながら)」
「そうか。それなら次からは親愛も含んでいると告げよう(鼻先にキスを落とし)…反対に尋ねよう。ホンダはどんな感情を俺に持つ?」
「…………言わないとだめですか?(逃げるように視線を彷徨わせ)」
「俺だけが言うのはフェアではないだろう(小首をかしげながら)」
「……です(ぼそぼそと囁くように呟く)」
「?(聞こえなかったのか目を細めてキクを見つめ)」
「れ、恋慕です……っ!もう勘弁してください!(恥ずかしさが止まらずに思わず手のひらで顔を覆う)」
「…………(言葉を理解しようとぱちぱちと瞬きを繰り返し)」
「……(普段の冷静さは一切残されていない)」
「ホンダすまない。追加だ。お前を抱く感情に同じく恋慕と加虐心と付け加えておいてくれ」
「!?なんですか加虐心って!(驚きのあまり顔を覆っていた手を離し)」
「漸く理解した。どうやらお前の困った表情に俗に言うと俺はそそられるらしい(キクの両手首を持ち強引に壁に縫い付け)」
「った!(壁に手首を封じられて眉を顰め)なんという性癖を……っ」
「俺もまさか自分にそのような感情があるとも知らなかったしそれを教えたのは紛れもなくホンダ、お前だ。…だから責任を取ってもらおうか(指同士を絡めながら噛み付くように口付け)」
「ふっ、ん!……ぷぁっ、私は教えたつもり毛頭ありませんでしたよ……(本能的な口づけに思わず目を潤ませ)」
「俺は応用も得意だからな。基礎を習い新たな項目に着目した結果これだ。よってお前が教えたも同然だ(手の力は緩めず至近距離で微笑みながら)」
「とんだ言いがかりだこと……(潤んでいた瞳から生理的な涙が一粒伝い)」
「(伝う涙をぺろりと舐め取り)…ああ、堪らないなこの味。その目。もっともっと、俺の手でないてくれないか?(言葉とは裏腹に優しい笑みを浮かべる)」
「……ああ、天然の野性を目覚めさせてしまった(嘆くように呟くが受け入れるように微笑みを浮かべ)」
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