一万打フリリク企画
月猫様:二人の子供(?)をスコッチが子守り
自分の家ではないが、それとほぼ同じくらいにリラックスできる家で、俺は血の繋がりのない小さな女の子と二人きりだった。その幼女は、名前と同じ色の大きな瞳を輝かせて、俺を見上げている。
事の始まりは、昨日の夜だった。
*
「もしもし、名前だけど。明日の昼って暇?」
幼馴染である名前から、夜に電話があり予定を確認した。明日は休日で特に予定もない事を伝えると、名前は申し訳なさそうに、昼前にうちに来てほしい、とだけ言って電話を切ってしまった。次の日、やっっっと付き合い出したゼロと名前の家に行くと、名前は既に外出していたようで、ゼロと知らない女の子がソファに並んで座っていた。せいぜい5歳ほどの子供で初めて見る子だ。だが、どこか名前に似ており、口端が引きつった。ちょっと待て。
「誰の子だ!?」
「そこ気になるか?」
「なるだろ!名前に似てるし・・・ま、まさか・・・」
にやり、と笑うゼロに確信する。あぁ、こいつら既に子供作ってたんだな、と。俺に内緒でなんて冷たい奴らだ・・・。でも俺は自分が生きていることをしばらくゼロに秘密にしていたから、その仕返しかもしれない。いやいやお祝いごとでこういうことをするのはひどいだろ。
普通にガックリしていると、ゼロが少女の頭を撫でて立ち上がった。
「悪いが、今から俺は仕事で、名前も夕方まで戻らないんだ。名前が戻るまでこの子を頼むよ」
「嘘だろ!?俺に子守なんかできるわけ・・・」
「名前と暮らしてる間は家事してたんだから、子守だってできるよな?」
あっ、これは名前と二人で住んでた時のことまだ根に持ってるやつだ。ただの同居人だ!と無実を主張したい所だが、これに関しては、事故だとしても裸を見てしまった事がある俺としては、言い訳のしようがない。だが、家事と子守は全くの別だ。
「この子は聞き分けもいいし、大丈夫だよ。他に誰もいないんだ」
「・・・はぁ。わかったよ。ここで名前が帰ってくるまでその子と待ってればいいんだな」
「助かる。・・・変な気起こしたら、わかってるよな?」
「起こすわけないだろ!いいから早く行けよ」
「あぁ、頼んだ。俺も夜には帰ってくるから。・・・じゃあな。おじさんと仲良くしろよ」
せっかくゼロが頼ってくれるのであれば、俺も断る気などない。せいぜい数時間だろう。泣かせないように全力を尽くす事にしよう。
ゼロが優しい笑顔で少女の頭を撫でると、少女はこくりと頷いた。驚いた。名前以外にそんな顔をするとは思わなかったが、名前との子供なら当然かもしれない。
俺にも一言声をかけてから、ゼロは出ていった。そして、俺は気づく。
「この子の名前聞いてない」
*
そして冒頭へと戻るのだが、まずはコミュニケーションを取るためにも、名前を聞かなければならない。よし、となるべく優しい笑顔になるように心がけて、少女へと近づいた。
「はじめまして、俺は景光って言うんだ。君のお名前は?」
「・・・と、とおる」
「トオル?かっこいい名前だな」
「うん・・・ありがとう」
どこか気まずそうに言うトオルという名の少女はどうやら人見知りのようで、俺の顔をしっかりと見ようとしない。だが、知らないヒゲ面のおっさんと2人になっても泣いたり喚いたりしない所を見ると、ゼロの言っていた通り聞き分けはいいようで安心した。
しかし、トオルとはゼロの昔の偽名ではないか。なぜこの名前を、しかも女の子に付けたのかは疑問が残るが、今考えることは、名前が戻るまでの時間つぶしについてである為、疑問を無理やり頭から追いやった。女の子が好きで、時間を潰せそうな事といえばひとつしかない。
「トオル、俺とクッキー作ろう」
そう、お菓子作りである。女の子はみんな好きだろう、という決めつけによってクッキー作りが決まった。そうと決まればソファから降りてもらわなければ。足が届かないから降りるのも大変だろうと手を差し出したが、それを無視して自力で降りようとして、トオルは顔面から床にダイブした。なんとも言えない空気が流れたが、数瞬で自力で立ち上がり、泣くこともせずに真っ赤な鼻を抑えて自らの足でキッチンまで歩いて行った。
洗面台に手が届かないのに、必死に背伸びして手を洗おうとするトオルを抱き上げて補助するという事件もあったが、クッキー作りはおおむね問題なく進んだ。いや、問題がなさ過ぎた。トオルは、本当に少女とは思えない程物覚えがよく、言うことをよく聞いた。子守とはこれほど楽なのだろうか、と一生懸命生地をこねている少女を見ながら疑問に思ったが、急に袖を引かれて思考が止まる。
「ひろみちゅ、あ」
「ブッ!ひ、ひろみちゅ・・・くく」
しまった、という顔をしているトオルがあまりにも年相応で、思わず笑ってしまった。俺が笑うことに不満なのか、頬をふくらませて、拗ねるようにそっぽを向くトオルの頭に手を乗せる。
「くく、ごめんごめん。あんまり可愛いから笑っちまった」
「か、かわ!?・・・そういうのはかのじょにいったほうがいいよ」
「へー、彼女とか知ってんのか。トオルは賢いんだな」
「だっておとなだもん」
「そうだな、レディに失礼した」
よくよく見ると小さい頃の名前にそっくりだが、あいつはここまで感情豊かではなかった為、新鮮な感じがする。最近はまだ感情を見せるようになってきたが、昔の名前は笑顔こそよく見せるが、どこか壁を作っている印象があり、それが歯がゆくてゼロと色々な事を試したもんだ。
「で、なんか言いたい事があるのか?」
「もういいかなって、おもって」
「あぁ、そうだな。じゃあ形を作ろう」
「ちょこれーといれたい」
「チョコ好きは母親似だな」
なんでもかんでもチョコを入れたがる所が名前と同じで、また血の繋がりを感じて笑う。だがこのタイミングで先程のように笑ってしまうと、トオルの機嫌を損ねてしまうかもしれない為、口端をあげるだけで我慢した。この家にクッキーの型などあるはずもなく、手で丸めてつぶすことで丸い形を作っていく。トオルは俺が作った丸い形の生地に、板チョコを砕いたものを一生懸命載せている。子供は体温が高い為、握りしめているチョコが溶けかけていて、手がチョコまみれになっていた。すべて載せきったのを見計らった所で、クッキーが並んだトレイを予熱済のオーブンに入れ、時間を指定する。自分のチョコまみれの手をじっと見つめているトオルの脇の下に、両手を差し込んで抱き上げた。
「うわっ」
「なめちゃダメだ。洗いに行こう」
「な、なめないもん。ひとりでできるし!」
「洗面台届かないよな?」
「ぐぬぅ」
さっきからこの子は、自分の背の高さだったり力の弱さだったり、自分が子供であることを理解していない行動をとっている。俺の手によって浮きながら手を泡だらけにして洗っているトオルを見て、現実離れした考えが頭をよぎるが、そんな事あるわけがないと一蹴した。
無事手も洗い終わり、使った用具をトオルと一緒に洗って片付けてをしていると、クッキーが焼きあがった。お菓子は焼き立てが一番美味しい為、形が崩れているものをひとつ摘んでトオルの口に放り込む。
「むぐ、おいひぃ」
「トオルが頑張ったからだな」
「・・・うん、ありがとう。のこりはれいくんとたべる」
「零くん?お前、父親のこと名前で呼んでるのか?」
「ちちおやじゃない」
「はぁ?」
ここにきて衝撃の事実。ゼロの子供じゃなかった。だが、顔はどうみても名前に瓜二つである。二人の子供ではないとすると、名前とどこぞの男の子供ということになるが、そんな存在にゼロがあんな優しい顔できるわけがない。
先程よぎった、ありえない想像が現実味をおびてくる。
「・・・おい、まさか・・・お前」
「やっときがついたの?わたし名前だよ」
「いやいやいや!なんで大人が急に幼児になるんだよ!漫画の読みすぎだろ!」
「えー・・・。じゃあ、ひろみつくんはわたしのはだかをみたことがある」
「な、なぜそれを・・・!?」
「さらにわたしのむねにかおむぐっ」
「わかったお前は名前だ。だから黙ろうな」
これ以上暴露話を続けられると、俺の心情的に危険な為、口を手で塞ぐという強硬手段で黙らせた。こんなふざけた話があってもいいのだろうか。だが実際に俺と名前しか知らない話を知っているし、先ほどまで感じていた違和にも説明がつく。
小さな手で、俺の手を引きはがそうと必死になっている名前に気が付いて、やっと口から手を放した。息苦しかったのか、名前の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「こどものくちをふさぐなんてひどい」
「わ、わるい。でも、本当に名前の子供じゃないんだよな?」
「わたしとひろみつくん、ここすうねんはみっかもあけずにあってたのに、にんしんしてないのしってるでしょ」
「言われてみればそうだけど、驚きが先にきて考えが及んでなかった・・・。というか、普通に教えてくれたらいい話だろ!?なんで子守りみたいな事させたんだよ!」
聞けば、昨日の夜に名前がとある事情で幼児化し、それが1日しか持たない事がわかった。しかし、名前が子供だということを自覚しない為、転んだりぶつけたりと、生命の危険が何度もあり、昨日の夜ならゼロが付きっきりで見張ることができたが、今日は仕事の為一緒にいる事ができない。だから俺に白羽の矢が立ち、名前の子守もとい、見張りを任されたと。俺に本当のことを教えなかったのはゼロが「その方がおもしろいだろ。気が付くまで言うなよ」と名前から言わない事を約束させられたから。
「まきこんでわるいけど、れいくんもどるまでここにいてね」
そう言ってまた一つチョコクッキーをぽろぽろとこぼしながら頬張る名前を見て、脱力したのだった。
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