極彩色の消失

それ以降、私は極彩色の世界を失った。
何を食べても、ただ感触しか感じられないのだ。好きだったはずの冷たくない蕎麦も、甘いケーキも、全部その色を失った。
誰にも興味を持てなくなった、優しい友人の話にも、楽しいテレビの話にも。これには非常に困った。人間関係が拗れてしまうのだ。

「冷灯ちゃん。私、冷灯ちゃんに何かした?」

人間関係が拗れても得するものはない、ただ修復が面倒なだけだ。話を注意深く聞くようになった、周りにも目を配るようになった。全ては円滑な人間関係のために。興味がなくとも状況は理解できたから、それに適した言葉をかけた。周りの全てがどうにも思えなくなってからの方が、人間関係が良くなった。余計に、わからなくなった。

何の味もしないものを食べて、何の感動もない日々を送る。あの気持ちに比べれば、到底マシのように思えた。あの気持ちってどんなだっけ?それもわからないけど。酷く代わり映えのない日常に安心していた。少なくとも、私の全てが否定されることはない。
揺蕩うような日々で、大好きな焦凍、大好きな姉さん、大好きな兄さんに大切にされている。自室でただ気を抜いていただけでも、声を掛けられ心配されてしまうような日常。なかなかどうして甘やかされている自覚はある。どれほど色のない世界でも、暖かい彼等だけは私の愛しい色彩だ。私の愛しくて優しい世界を守れるような人でありたい。
そのためにも、私は。
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