確定消すな  



 
相澤消太
 上手く呼吸ができない。壁についた両
手に力を込め、感情を抑える事に専念し
ようとした。酸素を求めるように口を開
き、ぐるぐると回り続ける視界と思考を
止める為に目を伏せた。このまま、もし
このまま自分の感情に任せて行動してし
まったら、衝動が抑えきれなかったら、
目の前の一人の少女はどうなってしまう
のか。俺が守らなければいけない彼女を
……ヒーローとして?教師として?大人
として?それとも男としてか?わからな
い。だが、傷つけたくない、嫌われたく
ない、拒まれたくない。それでも俺はこ
の欲望を抱かずにはいられなかった。
「ねえ、先生?」            
 不意に呼ばれ、目を開ける。俺が閉じ
込めた腕の中で今までずっと黙っていた
彼女が、俺を見ていつもと変わらない可
愛らしくもどこか影のある笑みを浮かべ
ていた。思わず奥歯を噛み締め、うるさ
い心音に邪魔されて彼女の言葉を聞き逃
さぬよう耳をすませる。  
「私、先生が好き。そうやって頭の中で
私を使ってやらしい事をたくさん考えて
る所も、罪悪感と正義感に押し潰されそ
うになっている所も、そんな自分を知ら
れてしまったら私に軽蔑されるんじゃな
いかって怯えてる所も、全部が好き」
 うっすらと冷や汗が背中を伝う不快な
感覚がする。俺は今どんな顔をしている
のだろう。彼女は今何を考えているのだ
ろう。愛の告白を聞いている筈なのに、
何故か嬉しさよりも言い知れない恐怖を
感じてしまう。    
「でもね、そんな事をいくら考えてても
私に触れない弱虫な先生が、一番好き」
 そう良い放った直後、彼女の細くて白
い手が俺の髪を掴んで下へと引っ張られ
る。痛みと驚きに抵抗すらできなかった
俺の唇に、甘く柔らかいものが乱暴に押
し当てられた。


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