確定消すな
相澤消太
目の前にある大きな傷跡を爪先で引っ
掻くようになぞる。柔らかい皮膚を削る
感覚に相澤先生が「んっ……う、はぁ」
と艶っぽい掠れた吐息を漏らした。そう
いえば傷跡は性感帯になるんだっけ?
「これは、いつつけられた傷ですか?」
「はあ、これは……数年前、にっ……」
「数年前、誰につけられた傷ですか?」
「巷で騒がれ、って、いた……っあ、は
っう……通り魔、はあっ、事件で……」
「へえ……どの通り魔事件ですか?」
相澤先生のたどたどしい説明を聞きな
がら手持ち無沙汰に爪先で傷跡を何度も
なぞる。正直な話、いつどこでこの傷が
できたかなんてどうでもいい。問題なの
は私の物に勝手に傷をつけてばかりいる
この男が少しも反省していない事だ。
「ふうん……じゃあこの傷は?」
一通り話を聞き流し、その隣の傷をま
た爪先でなぞる。相澤先生の肩が大袈裟
に震え、口から漏れる吐息はより荒く乱
れたものに変わって行く。先生は一体い
つになったら私の胸の内に渦巻くどす黒
い感情に気づくだろうか。全身の傷跡を
爪先で削り、痛みで上書きしなければ気
づかないのだろうか。いっそ私がこの体
に一番深く大きい傷を刻んでやろうか。
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