――天使が空から降ってきた。なんてロマンチックな話だったらいいけど。
羽も何にもない、普通の人が空から落っこちて来たらそりゃ、天下の怪盗キッド様も驚くってもんよ。
「ぉお!!?」
思わずマジシャンのポーカーフェイスが抜けちまったのはご愛嬌として受け取ってもらいたいね。
とにもかくにも俺はバキバキと嫌な音がしながら木の上に落ちた女を、慌てて追いかけていた。
事の始まりは今日も今日とて獲物を無事ゲットしてホクホクの帰り道。白馬の居ない現場は楽勝過ぎて逆に困っちまうってもんだ、と今日の現場を思い返してほくそ笑みながらハングライダーで空中散歩を満喫していた時だった。
空から何かが光を纏いながら物凄い勢いで落ちてきていた。
「は?なんだありゃ」
一瞬隕石の欠片かとも思ったが、不思議な光を纏ったそれは、どうもそんな感じじゃなさそうで。
興味本位で、落ちてくる方向に近づいていった。
追いかける途中、ふわりとスピードが緩まったそれは、近づくと形が明らかになって。
「……人、か?」
光る人!?宇宙人とか。いやいやいや俺宇宙人は居るとは思ってるけどでもそれが今この人類がいるたった数世紀の間に何億光年ってある宇宙からちょうど来る確立は非常に低いと思ってる方だしなとどうでもいいことをぶつぶつ思いながらも、落ちていたのが止まり、ぴたりと宙に浮いた所で俺はその物体にあと数メートルの距離へと近づいていた。
「……女、か?」
淡い紫のイブニングドレスを身に纏い、淡い光を放っている姿に思わず息を呑む。
小柄な女性のようで、長いブロンドの髪が重力はどこにいったのかという形でふわふわしている。伏せられた睫に、白い肌。肌に映える赤みがさしている頬。
白い肌にはサテン生地の淡い紫のイブニングドレスが良く映えて。鎖骨ラインが綺麗に浮き出ているデコルテラインが中々に色っぽい。
「めっちゃ怪しいのに、惹きつける格好しちゃってまーどーすっか」
そもそも生きているのだろうかと、触ったら人型被ったエイリアンで襲ってきたらどうしよっかなとかテレビの見すぎな事を思いながら恐る恐るふわふわ浮くその女に近づく。
触れるか触れないかの間際、少しの逡巡の間にふっと女を纏っていた光が消えた。共に浮力も消えたのか、急降下していくその体。
ちょ、え、ここで落ちんの!?え、俺が悪いの!?
「ぉお!!?」
とまあ、叫んで最初に戻るというわけで。
掴み損ねた手のひらをぎゅっと握って、慌てて彼女を追いかけた。
てか、バキバキとかすっげー音してっけど大丈夫か!?
落ちた木の先には、先ほどの彼女が。
枝ぶりの良い木だったのが幸いしてか、ところどころに擦り傷はあれど、大きな怪我は見た目にはとりあえずなさそうで、とりあえずほっと息をつく。
その体を抱え起こすと、ぴくり、と瞼が動いた。
傷を負わせた申し訳なさと一体何モンなんだという思い。それらとは裏腹に破れかぶれのドレスから覗く白い肌にどきりとする思いとが交錯する。
いやいやいや、どんなときもポーカーフェイスを忘れるな俺!俺はキッド俺はキッド!
「ん……」
ゆっくりと開く瞳は色素が薄めのダークブラウンで。艶のある唇が動くのに、ごくりと気づかれないようにつばを飲み込んだ。
「大丈夫ですか、レディ?」
無事を確かめるように、ゆっくりと声をかける。
その目が一瞬見開かれた様に感じた。
「……か、い、と……」
ドキリと心臓が跳ねると同時に、再び気を失ったかのように閉じられた瞳。
ドクドクと心臓が忙しなく動く。
――今のは、なんだ?偶然か?
俺の正体を知っている??
この女は、何者だ……?
再び閉じられた瞳は、開きそうにもなく。所々に擦り傷を負って、せっかくのイブニングドレスも破れかぶれなこの女を、そして自分のことを何か知っているかもしれない、光る生命体を放っておけるわけもなく。
どうするか。俺ん家……はないな。危険すぎる。
かといってどっかホテルで手当ても出来ねぇし。連れ込んでフロントに怪しまれでもしたらたまんねぇしな!
「……しゃーねぇ」
ごそごそと取り出したのは携帯電話。
「もしもし?寺井ちゃん?うん、無事無事、よゆーよゆー。んでさ。今から店の方いっていい?あ、救急箱用意しといて。あー俺は大丈夫だって!とにかくあと20分もすりゃ着くから。ごめんよろしく」
ぴ、と通話を切って、腕に中の女をみる。
なんか気持ちよさそうに眠ってるように感じんのは気のせいか?人の気も知らずに……
ひとりごちながら、抱え起こしていたその体を抱き上げ、ハングライダーをばさりと開いた。
好奇心は猫をも殺す。そんな言葉が頭に浮かんで、深いため息をひとつ吐いて。
運ぶついでにちょっとぐらい触ってもバチあたんねーよな、と思ったのはここだけの話だ。
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