何でもない振りをして
「……アイク!」
彼が危ない、そう思って敵へ向けてダガーを投げた。
その直後、鈍い痛みが私を襲った。
急に意識が遠くなって、私の記憶はそこで途切れてしまった。
次に目を覚ました時、私はどこか暗い場所に拘束されていた。
遠くから微かに金属が擦れ合う音が聞こえて、誰かが来ることが分かった。
元々密偵を生業とする私は暗闇でも目が利く。
金属音の方へ目を向けるとデインの上級兵がこちらを見ていた。
これから何をされるかなんて分かりきっていたし、案の定、予想は間違っていなかった。
こんな事は私にとって日常茶飯事で、私の身がどうなろうと別に構わなかった。
彼の役に立てるなら。
隙を見て敵兵の喉元にダガーを食らわせてやり、自由の身になった。
ついでに敵の情報も頂いたことだし、これでアイクは喜んでくれるはず。
野営地に着いてアイクに戦果を報告をしていると彼の視線がじっと私の首筋に注がれているのが分かった。
もしかしたら、何か痕が付いているのかもしれない。
「……それ、怪我じゃないか?」
首筋の赤黒い痕を彼は打撲痕か何かだと思ったようで。
「セシル、大丈夫か?」
見当違いな彼の心配も、彼の本心からだと分かっているから。
それが嬉しいはずなのに、本当は苦しい。
何もかも吐き出して彼にぶつけてしまいたい。
でも、そんな事をしたらきっと彼は私を軽蔑する。
心も体も汚れた私には彼の隣に立つ資格なんてないし、常に影にいなくてはならない。
だから私は、いつも彼に偽りの笑顔を向ける。
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