走馬燈の中で散りゆく


「おい! セシル! ったく、無茶しやがって!」
「あ、きひろ……?」

薄れゆく意識の中、最後に聞こえた言葉は酷く優しくて、私は安堵して意識を手放した。ギャラルホルンによるCGSへの襲撃は、三日月の反撃によって何とか凌げたらしい。三日月が来るまでの時間稼ぎの間、モビルワーカーで敵の注意を逸らしていた私は、運悪く敵の――グレイズの戦斧によって一撃をくらい、大破して大怪我を負った。最後にモビルワーカーから引き上げてくれたのが昭弘だったことだけはぼんやりと覚えている。オルガと三日月にこってりと絞られたけれど、折れた右腕と脇腹の痛みに耐えながら昭弘を探すと、彼は戦闘後だというのに相変わらず筋トレに励んでいた。

「昭弘」
「……ああ、もう大丈夫なのか」
「うん、助けてくれてありがとう」

腹筋を中断してじっと視線をよこす彼は私の右頬に貼ってある絆創膏が気になるようで。

「無茶すんなよ。痕、残っちまうだろ」
「今さらじゃない? 傷なんて数えられないくらい残ってるし」
「傷跡は、勲章じゃない」
「そんなこと、分かってる」

昔は傷の数を数えていた。傷の分だけ強くなれた気がしたから。でも、いつからか傷を数えることを辞めた。とても無意味なことに思えたから。いくら鍛えても非力な女の私には敵わない境界線があることを悟ってしまった。その分、モビルワーカーの操作にのめり込むようになった。2つ目の阿頼耶識システムを身体に入れた時は反動が酷くて死の淵を彷徨ったけれど、その甲斐もあって今では三日月、昭弘に続く三番手だ。ぼんやりと傷だらけの思い出を振り返っていると、突然の右脇腹への激痛によって現実に引き戻される。涙ぐむ視界に写ったのは険しい顔で私の脇腹に触れている昭弘だった。

「なっにすんのよ!」
「お前な、ちゃんと手当てしてから来い」
「……だって、早く昭弘に会いたかった、から」

最後の言葉を発する前にすっぽりと大きな身体に抱きしめられて、彼の匂いを感じるだけで私は生きていることを実感できる。痛む腕と脇腹を我慢して昭弘の身体を抱きしめ返すと、小さな声で生きていて良かったと安堵の言葉が聞こえて、それだけで私は幸せになった。

2015/12/6




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