「見ないで。」
夜中のトレーニングを終えた昭弘は微かに聞こえる音、もとい衣擦れのような音と圧し殺した声のようなものが耳に入り、このまま廊下の角を曲がるかどうか躊躇した。何故なら、微かに聞こえる圧し殺した声が女性特有の甲高い悲鳴に聞こえたからだ。CGSには唯一、セシル・ラナという昭弘とそう年の変わらないヒューマン・デブリの女性が所属しており、その女性の置かれている環境は噂として耳にしていたし、理解もしていたが実際に目の当たりにするのは初めてだった。どうするか考えあぐねていると、衣擦れの音が止み、どこかで聞いた覚えのある男の呻き声が聞こえたと思ったら、女性―― セシルの今まで聞いたことのないような嬌声が耳に入り、そのまましばらく無音が続いた。やがて靴音が聞こえ、ようやく件の2人はこの場を立ち去ったかと歩みを進めると、すぐさま壁にもたれかかるセシルの姿が視界に入り、昭弘は思わず声をあげた。
「なッ……!」
声を上げる程に驚いたのはセシルがほぼ半裸の状態でその場所にいたことであり、そのまま放置されたのだろう服装の乱れや生々しい行為の痕がそのまま残っていたからで、どこかいたたまれない気持ちのままどうすることも出来ず、かろうじて上着をセシルにかけてやることしか出来なかった。ぐったりとしたまま動けない状態のセシルは、焦点の合わない瞳を昭弘に寄こすと。見ないで。かすれた、泣きそうな声でそう告げるセシルの姿は普段の気丈に振る舞う彼女の姿と違って見えて、どこか心の芯の部分がちくりと疼いた気がした。このまま見過ごして帰ることなど昭弘には出来ず、そっとセシルの身体を抱き上げると薄暗い廊下を歩み始めた。
2015/12/6
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