眠れぬ夜に -2-

どれだけの間政宗の腕の中で泣いていたのだろう。
髪を梳かれる心地よさにうっとりとして、涙が止まり始めた。

ああ、目が腫れているかな。
顔を上げるのが恥ずかしい。

私が泣き止んだのに気づいて、政宗は髪を梳く手を止め、私をぎゅっと抱き締めた。
心がふんわりと温かくなり、甘く疼く。

そんなことされたら期待してしまうからやめて…。

軽く政宗の胸を押し返してみるがびくともしない。
政宗はますます強く抱き締めると、私の耳元で囁いた。

「落ち着いたか?」

ハスキーな声が甘く鼓膜を刺激する。
私は政宗の胸に顔を埋めたままくぐもった声で答えた。

「うん、ありがとう。ごめんね、急に泣いたりして。もう大丈夫だから…」
「そうか?」

政宗がそっと身体を離して私の顔を覗き込んだ。
私は腫れている目を見られるのが恥ずかしくて俯くと、政宗はそっと私の頬に手を添えて、親指で私の涙を拭った。
そして、その指をぺろりと舐める。
私はあっけに取られて思わず政宗を見上げると、政宗はニヤリと笑った。

「あんたの涙は甘い香りがするな…」
「もう、冗談はやめてよ」
「I'm not kidding. 本当のことだぜ」

ああ、こうしてこの人は数多の女性を口説いてきたのだろうか。
きっとモテてたんだろうな。
この容姿に、奥州筆頭という地位。
遠い世界の人だ。

「あんた、寂しそうな顔ばかりするんだな」
「え?」
「気づいてねえのか。重症だな。あんたは笑ってる方が可愛いと思うぜ。あの絵みたいに」

政宗は棚の上の写真立てを指差した。
元彼を後ろから抱き締めて二人で微笑んでいる写真だ。

あの時は幸せだった。
何もなくても二人でいるだけで満ち足りていて、自然と笑みが零れた。

また睫毛を振るわせる私の頬を政宗はそっと両手で包んだ。

「夢が覚めるまでに、一度でいいからあんたの心からの笑顔が見たいぜ」
「長い夢ならチャンスはあるかもね」
「あんたの笑顔を俺が取り戻してやるよ」
「すごい自信家」
「世話になった礼だ。こんな顔させたまま放っておけるかよ」

政宗はすっと私の頬を撫でると手を離した。
相変わらずその鋭い隻眼は私をじっと見つめている。
私はいたたまれなくて、視線を外し、時計を見た。
もう、午前1時半だ。

「わ、大変!!もうこんな時間!!明日美紀も来るし寝なきゃ」
「こんな時間?まだ明るいじゃねえか」
「それは電気をつけているからだよ。ちょっとこっち来て」

私は政宗の手を引きベランダへ出た。

「Holy shit!!外は真っ暗だぜ。夜にしたら随分明るいけどな」
「それは明かりがついているからだよ」

政宗は心底驚いたように、How cool!!などと呟いている。

「そういうわけだから、もう寝ないと。政宗はこの部屋で寝てね。クーラーなくてごめん。暑かったらリビングに来てもいいけど、やっぱり同じ部屋で寝るのはちょっと…」
「Oh, 残念だぜ。まあ、いいぜ。あんたには世話になってるからな」
「私はリビングで寝るから。何かあったら声かけて」
「リビング?さっきの部屋だな?Okay, got it」

私は予備の布団を敷くと、政宗におやすみを言い、部屋を後にした。
そして、リビングのソファベッドをベッドの形に引き伸ばす。
ちょうどセミダブルベッドくらいの大きさになる。
場所を取らないのでとても重宝している。
私は電気を消し、ベッドに横になった。

今日は色々なことがあった。
頭の中をぐるぐると取りとめもないことが巡って眠れない。

夢や幻覚にしてはやけにリアルな。

早く美紀に会いたい。

もしかしたら寝て起きたら全て夢だったとういこともありえるんだから、気にしないようにするのが一番かな。

目を閉じて呼吸を落ち着けて眠ろうとすると思い浮かぶのは別れた彼のこと。
一緒にいる時は、いつも後ろから抱き締めて眠っていてくれた。
普段は遠距離恋愛なので、そういったことは出来ないのは当然なのだが、長期休暇のときは毎日そうして眠っていた。

元々寝つきが悪い私だが、彼の温もりがあると不思議とすぐに寝付けるのだった。

今日も寝つけなくて、何度も何度も寝返りをうつ。
時計を見ると、もう2時をとっくに過ぎていた。
もう30分以上も寝返りをうっていたようだ。

まずい、このままだと眠れないかも知れない。

私は溜め息をついてベッドから起き上がった。
寝付けない時は一度ベッドから起きるに限る。
あんまり頼りたくないんだけど、タバコでも吸って気分を落ち着けようか。
ベランダに通じる部屋には政宗が眠っているので、吸うなら玄関の外だな。
私はバッグからタバコ、ライター、携帯灰皿を取り出すと、リビングのドアを開けた。
すると、すぐ後ろから押し殺したような声がかかった。

「Hey, 遙。Where are you going?」

振り向くと、眠っていたはずの政宗が寝室のドアを開けて立っていた。
鋭い視線でこちらを睨んでいる。
ああ、もしかしたら置いていかれるとか思ったのかな?

「ごめん、起こしちゃった?」
「Ah…、まあな。人の気配がすると起きる癖なんだよこれは。刺客とかいるだろう?独眼竜は伊達じゃねぇ、you see?Anyway, what’s wrong?」
「眠れなくて…。ちょっとタバコを吸いに外に出ようと思って」
「タバコか。俺ももらおうか」

そう言えば、史実で政宗様は愛煙家だったな。
BASARAの政宗もそうなんだ…。

「うん、いいよ。煙管で吸うタバコじゃないけど…。安物だよ?」
「No problem。異世界のタバコにも興味あるしな」

私たちはサンダルを履いてドアの外に出た。
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