「What the hell is that?」
「あれは自動車だよ。機械で動いているの。まあ、馬みたいなものかな」
「あれがあれば移動が楽だな。馬より断然速え」
私は曖昧に微笑んでタバコに火をつけ、煙を肺まで吸い込んでほうっと吐き出した。
政宗はじっと私を見ている。
「あ、ごめん。政宗にも、はい」
政宗にも一本タバコを差し出す。
政宗がそれを咥えると、私はライターに火をつけた。
長身の政宗が屈んでタバコに火をつける。
シャンプーの香りがふわりと香る。
長い睫毛の切れ長の目が伏せられて、私の手元に美しく整った顔が近づけられて私はドキリとした。
本当に綺麗な顔をしているなあ。
まだ濡れた髪にタバコを燻らせて、とてもキマっている。
政宗もすうっと煙を吸い込むとふぅっと吐き出した。
「It's not too bad. 煙管と違ってすぐに消えねえしな。その火を着ける道具、便利だな」
ニヤリと笑って政宗は手すりに腕をつき、中空に煙を吐き出した。
気だるげな目元に色気が漂っている。
物思いに耽っているようなので、私も眼下の車の群れを眺めながら、煙を吸い込んだ。
一度軽く吸い込んでから、さらに深く吸い込んで煙を吐き出す。
「あんたのその吸い方」
不意に政宗が口を開いた。
「寂しそうだな。タバコに依存しているように見えるぜ」
政宗の言っていることはあたっている。
心のもやもやをタバコで打ち消そうと、肺の隅々まで煙を行き渡らせてその毒に身を委ねる。
毛細血管に入ったニコチンが私の心を沈静させる。
強いタバコを吸うのも、吸ったあと頭の動きが鈍くなり、身体がふわふわとした浮遊感に包まれるからだ。
この感覚に身を委ね、何も考えずに眠りに落ちてしまうため。
政宗は無言でタバコをふかしていた。
何を考えているのかわからない。
ただ、その横顔は心が蕩けてしまいそうになるほど美しく凛々しかった。
「政宗、このタバコね、いわくつきなんだ」
「ほう…、どんな?」
「Men always remember love because of romance only. 男はロマンスでしか愛を覚えていられないんだって」
政宗は興味なさそうに、気だるげに煙をふぅっと吐き出した。
「愛ねえ。俺にはわからねえな…。俺に寄ってくるのは俺を奥州筆頭として見ている女ばかりだ。あとは、顔も知らねえ大名の姫との縁談か。情が湧いたことなんてないぜ」
「政宗は奥方がいるの?」
「いねぇよ。面倒くせぇ。世継ぎをと言われてるが、そんなことより今は天下だ」
「そうか…。そうだよね…」
愛は痛いけれど。
知らないのは哀しい。
目を伏せてしまった私の顎を捉えて政宗は上を向かせた。
政宗の視線とかち合う。
「あんたが落ち込むことはねぇだろ?愛なんて知らなくても生きていけるぜ」
「そうだね…。愛は痛くて哀しいから…」
私は力なく微笑むと、再びタバコを肺一杯に吸い込み吐き出し、火を灰皿で消した。
政宗も火を消すと、灰皿を持って私は先に部屋に入った。
私の後姿を政宗がもの言いたげに見つめているとは知らず…。
私たちは部屋に戻り、それぞれの寝床に入った。
タバコでいくらか落ち着いたものの、寝付けないことには変わりなかった。
何故か無性に寂しい。
『あんたのその吸い方、寂しそうだな』
政宗の台詞が胸に木霊する。
そうだ。
私は寂しいんだ。
この心の空白はいつ埋まるのだろう。
元彼の温もりを思い出してはそれに飢えている自分がいる。
暑いけれど心は凍えて死にそうだ。
温もりが欲しい…。
自分を抱き締めるようにして小さく丸まって横になっていると、寝室のドアが開いた気配がした。
政宗だ。
思わずビクリと身体を震わせてしまう。
もしかしたらトイレに行くだけかも知れないし。
このまま寝たふりをしよう。
私は呼吸を整えて、すやすやと眠っているふりをした。
政宗は私のベッドの前で立ち止まり私を覗き込んでいるようだった。
顔が火照ってくる。寝顔を見られるのは恥ずかしい。
ぎしりとベッドがきしむ。
政宗がベッドに腰をかけたようだ。
早く立ち去ってくれることを祈りながら、身を縮こませていると、頬に柔らかいものがあたった。
これは、唇?
ビクリと身体を震わせ、思わず目を開けてしまった。
ニヤリと笑った政宗の綺麗な顔がすぐ目の前にある。
「寝たふりとはいい度胸じゃねぇか、遙」
「政宗、どうしたの?眠れないの?」
「Ah…この部屋で眠らせてもらおうと思ってな」
「あの部屋やっぱり暑かった?」
「まあな。それもあるが、そんなことよりあんたのこの顔…」
そう言って、政宗は私の頬を撫でた。
「こんな顔させたまま放って置けるかよ。あんたが眠るまでずっと一緒にいてやるから、安心して寝ろ。寂しくてたまらないんだろう?人肌が恋しいなら抱いてやる」
「だ、抱く!?いやいや、そこまでは…!!」
「クッ、何考えていやがる。夜伽じゃねえ。添い寝だ。それともあんたのそのsweet voiceを俺に聞かせてくれるつもりだったのか?」
「もう、止めてよっ!」
私は赤くなった顔を枕に埋めた。
政宗がベッドに入ってくる気配がする。
そして、真ん中に陣取っていた私の身体を軽々と抱き上げると、自分が横になれるスペースを作り、私を後ろから抱き締めた。
久々に全身をすっぽりと人肌で包まれて心の中に安堵感が広がっていく。
「少しはマシか?」
「……うん、気持ちいい…」
「Glad to hear that」
「もう少し…」
「What?」
「ぎゅっとして…」
政宗がくすりと笑う気配がした。
「あんまり男を誘うんじゃねぇよ。襲われても文句は言えねぇぜ。まあ、今日は特別だ。あんたにsweet dreamを見せてやるためにな」
そう言うと政宗はぎゅっと私を抱き締めてくれた。
少し痛いくらい強い方が気持ちいい。
その存在をしっかりと感じられるから。
私は、心の中が満たされていくのを感じながら眠りに落ちていった。
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