Born to be my baby -2-

政宗と二人、昨日のアクセサリーショップのドアをくぐった。
ところ狭しとディスプレイされたアクセサリーはどれも夏の香りがするような、開放的で可愛らしいものばかりだ。
私は昨日のガーネットのピアスを手に取った。
見れば見るほど吸い込まれそうな深い真紅のガーネット。
政宗は対の翼のロケットを手に取って、私の肩越しにピアスを覗き込んだ。

「やっぱり、それが気に入ったんだな。Let me see」
「うん、いいよ」

政宗にピアスを手渡すと、じっとガーネットを検分するかのように眺めた後、ピアスの後ろ側を見る。

「これ、どうやってつけるんだ?」
「耳たぶに穴をあけて、そこにつけるんだよ。ほら、こういう風に」

私は、髪をかきあげ、耳を露にした。
政宗が指先でそっと私の耳たぶをなぞる。

「なるほどな。きっと似合うぜ。But……」

政宗が言いよどむので、私が見上げると、政宗は困ったように視線を彷徨わせた。

「笑うなよ?」

薄っすらと頬を染めて、低い声で釘を刺す政宗が何だか可愛いと思いながら、私は頷いた。

「このロケットをpairでつけるだけでも十分なのに、俺はまだお前を縛りたい。これだったら水に濡れても大丈夫だろ?外さないで済む。この耳飾りをお前とpairでつけたいなんてな」

私は思わずくすりと笑ってしまった。

「Hey, I told you not to laugh!」

政宗は更に頬を染めて私を睨み付けた。
少し怒気を含んだその視線も、頬を薄っすらと染めた表情では、怖いというよりもむしろ可愛らしい。
私は、笑みを堪えきれずに、口元が緩むのを感じながら答えた。

「ゴメン。おかしいんじゃなくて、可愛いなって思ったの。嬉しいよ。いいんじゃない?政宗にぴったりだと思うよ。結構重厚感があるから男の人がつけてもおかしくないし。それに、ガーネットの宝石言葉は『勝利』だもんね。伊達軍にぴったりでしょ?」

手を伸ばして、政宗の頭をそっと撫でると、その手首を政宗が掴んだ。

「勝利もだが、むしろお前に。Garnetの宝石言葉は『貞節』だろ?I told you。お前の心を縛りたいって。俺を絶対に忘れないように。他の男に心奪われないように」

私の目を真っ直ぐに見つめる政宗の隻眼は酷く真剣だった。
政宗は、そう遠くない別れのことを恐れているに違いない。
初めての恋が実って、それをすぐに手放さなければならないなんて。
だから、離れても私が政宗を忘れないように私の心を縛りたがる。
きっと心の中は不安でいっぱいなのだろう。

私も政宗と離れたくない。
家のためとは言え、正室を迎えて世継ぎを成す政宗を思うとどうしようもなく悲しくなる。
昨日、私を愛してくれたこの腕で、他の誰かを抱くなんて…。
だから、政宗の束縛は心地よく、そして、嬉しかった。

「政宗がそうしたいなら、私はそれでいいよ。じゃあ、政宗もずっとこれをつけててね。政宗が帰ってしまった後も、政宗もこれをつけていると思ったら、きっと寂しくても、私はいつも政宗のことを思っていられるから」
「Okay, I promise. I'll always think of you」

政宗は嬉しそうに口元を綻ばせて笑った。
思わず胸がきゅんとなるくらい、少し可愛くて、綺麗な笑みだった。

「でも……」
「What's wrong?」
「政宗の耳に穴をあけないといけないね。政宗を傷つけるの、嫌だな」

私が笑みを消して目を伏せると、政宗は私の頬に手を沿え、顔を上げさせた。

「お前につけられた傷痕は、この耳飾を外さない限り、一生残るだろう?一生消えない傷を、お前につけられたい。この身体に刻んで、お前という存在を永遠にするために」

政宗の身体に永遠に消えない傷痕を私がつける。
そうしたら、それは永遠の呪縛になって、政宗は私の事を忘れない…?
他の女の人を抱いても、傷痕を見る度に私を思い出してくれる…?

それは酷く甘美な誘惑だった。
どんなに政宗とずっと一緒にいたくても、それは叶わぬ事だから。
束縛したくても、もう二度と会う事すら出来なくなるから。

私の永遠の束縛を欲しがる政宗が愛しい。
仄暗い幸福感に胸が満たされていく。
政宗の心を縛ってもいいの…?

「じゃあ、私も、政宗に私の耳にピアスの穴を開けて欲しいな。このピアスをつけるために。私も一生消えない傷痕を政宗につけられたい。このピアスを見て、いつも政宗を思っていられるから。私、このピアスを絶対に外さない。記憶は薄れるかも知れないけど、きっとこの傷痕が記憶を繋ぎ止めてくれるから」

政宗は軽く目を瞠った後、嬉しそうにふわりと微笑んだ。

「お前を傷つけたくはなかったけれど。出来るものならば、お前は永遠に俺のものだという証を、目に見える形で付けたかった。遙…I love you」

政宗は軽く私の頬にキスを落とすと、翼のロケットを私に手渡した。

「後で、写真を撮ろうぜ。お前のcuteな写真が欲しい」
「cuteかどうかは分からないけど。じゃあ美紀に頼もうかな。政宗と一緒に写ってる写真が欲しいし。いっぱい一緒に遊んで、たくさん写真撮りたいね」

私の部屋の、棚の上に飾られている、あの写真は政宗のものに置き換えられる。
もう二度と会えないというのなら、政宗の色々な表情をカメラに収めて。
二人寄り添った写真を撮って。
写真立ても増やして。
政宗の面影を忘れないように……。

政宗の言った事は当たった。
元彼の記憶は政宗によって塗り替えられ。
私の部屋にあった元彼の面影も全て政宗で塗り替えられる。
それは甘い束縛。
私は政宗を忘れたくないから。
満たせるものなら、私の周りにあるもの全て、政宗の気配と面影で満たしたかった。

「お決まりですか?そのピアスとロケットは一点ものなんですよ。綺麗な色のガーネットですよね」

レジに品物を持って行くと、昨日の店員が同じ台詞で私達を迎えた。
世界に一つしかないロケットとピアスを政宗と分け合う。
そう思うと、離れていても、生きる時空すら違っても永遠に政宗と繋がっていられるような気がして、心の奥が甘い幸福感でふわりと温かくなった。
隣りに立つ政宗を見上げると、口許を綻ばせてフッと笑っている。
政宗もきっと同じような気持ちでいるのだと思うと嬉しくて、私はそっと政宗の手を取り指を絡めた。
そっと手を握り返されて胸がキュンと疼く。

私はロケットとピアスを買い、政宗と店を出た。

「どうする?家に帰ってピアスの穴を開けてからのんびりする?多分、この辺には開ける道具売ってないよ」
「Ah…。もう少しお前と海を眺めてぇし、早くピアスの穴も開けたい。早くお前とpairのaccessoryをつけて、海を眺めてぇ。ダメか?」

ねだるように見つめられるとドキドキとする。
私ももう少し政宗と一緒に夏の海を眺めていたかった。

「いいよ。じゃあ、藤沢に行こうか。あそこなら海もあるし、お店もあるから」
「Sweet!Here we go!」

目を細めて笑う政宗の笑顔は眩しかった。



古都鎌倉とは違い、藤沢は海に面した繁華街だ。
私はそこでピアッサーと消毒用アルコールと脱脂綿を買った。
ついでに行きつけのバスグッズの店に寄った。
普段リラクゼーションのために使っているテンプルバームを買いたかった。

店の中は甘い香りに満ちていて、カラフルなバスグッズが目を引く。
政宗は物珍しそうに品物を手に取り、眺めている。

「これ、何に使うんだ?」
「それは入浴剤。お風呂に入れるんだよ。それからあれは石鹸。ほら、いつも身体を洗っているでしょう?あれは液体だけどこれは固体なの」
「Gotcha」

政宗は一つ一つ手に取り、香りを楽しんでいる様子だった。

「政宗は香合わせとかしてたんでしょう?もっと高貴な香りの方が好きだよね?」

政宗様というと、多趣味で教養も深い伊達男だ。
こんな子供じみた香りは趣味じゃないかも知れない。
鎌倉にある、お香の老舗の方が良かったかも知れない。

「いや、そんな事ないぜ?」

政宗はニヤリと笑うと私の耳元に唇を寄せて囁いた。

「花の香りをさせているお前も好きだが、こういう甘い菓子みたいな香りのお前もいいな。思わず喰いたくなる」

私は思わずギョッとなり政宗を見上げた。

政宗は悪戯っぽく笑うとくしゃりと私の頭を撫でた。

「Ha!冗談だ」

くすくすと笑っている政宗に驚き呆れながらもホッとしていると、政宗はふと真顔になった。

「あながち冗談でもねぇけどな。きっと甘い香りをさせたお前はcuteだぜ。優しく大切に喰っちまいたくなる。大事に大事に愛してやるよ」

そう言って笑う政宗の笑顔は蕩けそうなほどに艶っぽかった。
胸がドキドキとして、身体の芯が少しずつ熱くなってきて疼く。

あんなに男の人に抱かれるのが苦手だったのに。
昨日私を抱いた政宗の身体の温もりと壊れ物を扱うかのように、身体に滑らされた優しい手の感触を思い出す。

思い出すと、身体はますます熱くなり、薄っらと頬が染まって行くのが自分でも分かった。

「嫌か…?」

少し首を傾げて、優しい声音で尋ねられて。
私は首を横に振った。

「ううん。……嫌じゃない……。優しくしてくれるなら……」

一晩身体を重ねただけなのに。
もうこの身体は政宗の温もりを貪欲に欲していて。
もう一度気怠い空気に包まれながら、優しく愛撫されたいと願ってしまう。

政宗は一層笑みを深めて、少し掠れた優しい声で囁いた。

「As you wish. 優しく大切に愛してやるよ。この想いが少しでもお前に伝わるように」

そっと私の頬を撫ぜると、政宗は石鹸を物色し始めた。
甘くて美味しそうな香りの石鹸をいくつか政宗が選ぶと、私もテンプルバームと甘い香りのリップクリームを買って、店を出た。
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