Creeping Shadow -2-

いつものように、遙がPCに向かって書き物や調べ物をしている。
勉強している遙の横顔が好きだ。
いつもはふんわりとした笑顔を浮かべている遙が、coolな眼差しになってじっと何かを考え込んでいる様子が、教養溢れる女といった様子で見蕩れる。
ちらりちらりと遙の横顔を盗み見ながら、俺はその隣で本を読んでいた。
さらさらとノートに滑らせていたペンが止まる。
休憩を入れるのかと思い、遙を見遣ると、遙は少し顔を強張らせてPCの画面を見ていた。

「遙、どうした?」
「……政宗、ごめん。ちょっと一人にしてくれるかな?」

遙はこちらを見ようとせず、PCの画面を凝視したまま静かな声で呟いた。

今までずっと一緒にいた。
いくら抱き合っても飽き足らなくて、互いの温もりを貪るように抱き合う事はあっても。
遙が一人になりたいなんて言った事はなかった。

遙は何か俺に隠し事をしているのだろうか。
俺に言えない何かを隠している……?

「遙、俺に隠し事はなしだ」

遙の両肩を掴んでこちらを向かせると、遙が俺を見上げる。
その瞳は困惑の色で揺れていた。

「全てが終わったらちゃんと話すから。だから、お願い。一人にして。すぐに終わるから」

そこまでして隠したい事が気になって仕方がない。
何故、遙が急にこんな事を言い出すのか全く分からない。
それでも、遙は言うつもりはないらしく、じっと俺を見つめる。
PCのツールバーがオレンジ色に点滅しているのがやけに目につく。
そのウィンドウの名前を見ようとすると、遙が俺の視界を遮るように抱きついてきた。
そして、奪うように何度も口付ける。

「政宗、愛してる。ちゃんと後で話すから。だから、お願い……。私は、政宗だけを愛してるから……」

縋るような視線が段々と哀しみの色に染まっていく。

ずっと遙は幸せそうに微笑んでいたから。
その微笑が消えたことが哀しくて。
その憂いを取り除いてやりたくてそっと頬を撫でても、遙の頑なな視線は揺らがなかった。
やがて俺は諦め、溜息を吐いた。

「終わったら連絡しろ。夕餉の買出しに行ってくる」

遙は吐息を吐いて目を伏せた。
その額にそっと口付けて立ち上がる。
もの言いたげに遙は俺を見上げるものの、結局何も言わなかった。
俺も、問い質したい事はたくさんあるのに。
この不安が一体何に根ざしているのか分からなくて。
かける言葉が見つからなかった。

遙にすっと背を向け、玄関の方へ歩き出す。

「どれくらいかかりそうだ?」
「20分もあれば十分だと思うよ」
「Alright」

20分なんて遙と抱き合っていたらあっという間の時間なのに。
たったそれだけの時間。
遙の傍にいられないことがもどかしくてたまらなかった。

遙は玄関まで俺を見送りに来て、もう一度強く俺を抱き締める。

「そんな不安そうな顔をしないで。大丈夫だから」

遙のほうが余程悲しそうな顔をしているのにそう言って俺を抱き締める。

「約束だ。俺に隠し事はなしだ」
「うん、分かってる。じゃあね」

唇を重ねると、遙はそっと俺を外に促した。
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