真相 -4-

いつまで経っても政宗は帰ってこない。
もう、政宗が家を出て行ってから1時間は経とうとしていた。
携帯に何度電話しても繋がらない。

不安で。哀しくて。
涙が零れる。

メールに着信があったので、政宗かと思ったら、クラスメイトの由香だった。
大学の課題を手伝って欲しいという内容のメールに少し考える。

どこにも行きたくない気分だった。
それでも、政宗が帰ってくるのをずっと待ち続けているうちに、不安で不安で人恋しくなってしまって。
哀しくて胸がつぶれそうだったから。
私は由香と出かけることにした。

由香と銀座の喫茶店で軽く食事を取りながら、大学の課題とテスト勉強を見てあげる。
つい上の空になってしまいそうになるけれど。
それでも、勉強について考えている間は、少しは政宗のことを考えないで済んだ。

一通り大学の勉強を終え、とりとめもない話を二人でしているうちに、あっという間に2時間が経過していた。
そろそろ政宗は家に帰っているだろうか。
それでも、何度も携帯に電話しても出なかった事が重くのしかかる。
もしかしたら、政宗はもう私を許してくれないかも知れない。
由香が私の顔を心配そうに覗き込んだ。

「遙、ごめん。長居しすぎちゃったね。疲れた?何か、顔色悪いよ?」
「うん、大丈夫。多分、家で寝れば治るから」
「そう?じゃあ、そろそろ出ようか」

私達が外に出て、少し歩くと、由香が私の腕をくいと引いた。

「ねぇ、あれ、美紀だよね?うわぁ、隣りを歩いてる人、カッコいい〜」

言われた方を見ると、美紀が頬を染めて膨れっ面をしながら男の人と歩いている。
私は目を瞠った。

あれは、政宗だ。

軽く美紀の肩を抱いたり、頭を小突いたりしながら、悪戯っぽい笑顔で歩いている。
政宗は私の頭を小突いたりしない。
あんな風に私の前で笑わない。

胸がズキンと痛んだ。

よく、恋の相談をしているうちに、その相談相手と恋に落ちてしまうという話を聞いたことがある。
きっと、政宗は美紀に相談して……。
美紀に惹かれてしまったの……?

全ての歯車が、元彼からの電話で狂ってしまった。
私はこのまま政宗を永久に失ってしまうんだ……。

「遙…?大丈夫?すごく顔色が悪いよ?」

由香が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「うん、大丈夫。ねぇ、由香。また一緒に遊んでくれるかな?」
「うん、いいよ!今日は早く帰って寝た方がいいよ。じゃあね!」

私は地下鉄に乗る元気もなく、タクシーを捕まえて家に帰った。


美紀のことは信じている。
いつだって私の事を考えてくれている。
美紀に限って、一線を越えたりなんてしない。
だから、私は、美紀を信じて、政宗の帰りを待つしかない。

でも、もし帰って来なかったら……?

一晩明かすと言っても、ホテルに行くとは限らない。
一晩中開いているバーなんて銀座にはいくらでもある。

それでも……。
私は不安で不安で堪らなかった。

家に帰り、着替えもせずに、ベッドに横たわる。
政宗と二人だと少し狭いベッドが、一人だととても広く感じられた。
シーツはとても冷たくて。
政宗の温もりが酷く恋しい。

タオルケットをかぶると、少し政宗の香りがした。
切なくて涙が出てくる。

政宗に会いたい。
でも、どう話したらいいのか分からない。
誤解を解きたいのに、政宗が私の話を聞いてくれる自信なんてなかった。

哀しくて哀しくて、涙が止まらない。
インターバルを置くように、時折涙が止まるけど。
少し白湯を飲むと、何だかまた哀しくなって、涙が流れた。

もう、家に帰ってから1時間ほど経つ。
時計は10時を指していた。
政宗と別れてから、もう4時間以上経っている。

いっそこのまま深く眠って全て忘れてしまえれば……。

泣き疲れて、うとうととしていると、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
身体を起こしたいのに、力が入らない。

ひたひたと廊下を歩く音が聞こえて、部屋の電気が点けられた。

「遙…?寝てるのか?」

とさりと荷物が置かれる音がして、政宗が私の髪をそっとかき上げる。

「やっぱり泣いていたんだな…。Sorry…」

私の目元をそっと親指で拭う。
やっと政宗が戻ってきてくれたのに、どう話していいか分からなくて。
さっきの美紀と話していたシーンがどうしても忘れられなくて。
私はぎゅっと目を瞑って、寝返りを打って政宗に背を向けた。

「遙……信じてやれなくて悪かった。全部、美紀から聞いた。お前の前の男の事……」

美紀と会ってたことは認めるんだ…。

それでも、私以外の女の子の肩を抱いたりする政宗なんて見たくなかった。

身体を縮こませるようにして、拒絶の意思を表す。
タオルケットを抱き締めるようにして、身体を丸めると、後ろから政宗が抱き締める。

「嫌っ!!」

自分でも驚くほど鋭い声が出て。
背後の政宗が身体を強張らせる気配が伝わってきた。

「遙、どうした……?」
「私なんか放っておけばいいでしょう?浮気をする女だと思っているんでしょう?美紀のところに行けばいいじゃない」

本当は政宗に傍にいて欲しいのに。
心とは裏腹の台詞が飛び出す。

「美紀には男がいるだろ?人の女には手ぇ出さねぇよ」
「嘘!」

私は思わず、政宗を振り返って睨み付けた。
政宗が、ハッと目を見開く。

「お前、見てたのか…?」
「…っ…知らないっ……!!」

また背を向けようとすると、ぐいと身体が引かれて。
そして、唇を奪われた。

「嫌っ……んっ……嫌いっ……」

政宗は息も吐かせない程、何度も唇を奪う。

「やっ!……んっ……」

政宗の胸に手をついて身体を離そうとすると、後頭部を引き寄せられる。
息苦しくて、顔をようやく逸らすと、政宗が低い声で呟いた。

「遙、愛してる…。俺しか愛せねぇ女が嘘吐いてんじゃねぇよ」

そう言って、また、何度も何度も深く唇を重ねられる。
もう、抵抗する力も残っていなくて。
されるがままに、くったりと身体から力を抜くと、ようやく政宗は唇を解放した。

「信じてもらえない痛みが今初めて分かった。もう二度とあんな事は言わねぇ。約束する。美紀とは何でもねぇよ。ちょっと協力してもらっただけだ。お前に渡したいものがある」

そういうと、政宗はポケットに入れていた封筒を私に差し出した。

「これをお前に」

何のことか分からず。
それでも、政宗が目で促すので、私は封筒を開けて、中身を出した。

中身はお金だった。
10万円の束が5つ。
50万円だった。

驚いて思わず涙が止まる。

「政宗…これどうしたの…?」
「金子を換金してきた。結構な額になったぜ。それはほんの一部だ。後は俺のpocket moneyだな。それだけあれば、1ヶ月間の居候は十分か?」
「十分過ぎるよ!!」
「そうか、なら良かった」

政宗はホッとしたように微笑んだ。

「それは今までの分。これからは俺のpocket moneyで、お前にprincess気分を味合わせてやるよ。明日、買い物に出かけようぜ」

私の頬を撫でながら話す政宗は、今朝と同じ優しげな笑みを浮かべていた。

「今日の埋め合わせをしたい。謝っても許されねぇかも知れないけど。それに…俺の服って前の男のだろ?全部取り替えたい。明日は俺の服も買いに行く」
「……もう、前の彼の事は聞かないの?」

政宗は目を伏せた。

「大体は美紀から聞いた。そして、お前がよりを戻すつもりもないことも分かった。悪かった。俺はもう、お前を傷つけない。約束する」

優しく私を抱き締めながら政宗が囁く。

「こんなに大切なのに、酷いことしちまった…。どうしたら許してもらえる?触れることが許されるなら。お前が心を開くまで、ずっと抱き締めて。キスを落として。ずっとどれだけお前が大事か囁き続ける。遙、愛してる…。たとえ許されなくても、それでも、俺はお前を愛してる…」

頬に、瞼に口付けを落としながら、政宗が甘い声で囁く。
焦がれていた温もりに再び包まれて、涙が零れた。

「もっと政宗の温もりが欲しい…。寂しいのは嫌…。哀しいのも嫌…。もっと私を愛してっ…。私を信じてっ…」
「遙!!」

政宗は一層強く私を抱き締めると、深く唇を重ねた。

「約束する。二人でいる間は、いつでもお前を包み込んで。もう不安にさせたりしないから…。もう、俺はお前を疑わない。これほど大切なのはお前だけだから…」

私は焦がれたように何度も政宗を求めた。
私が疲れきって眠りに落ちるまで、政宗は飽きることなく私を抱いてくれた。

願わくば。
もう、誰も傷つきませんように。
ただ、包み込むような愛だけを感じていられますように。


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