政宗はフッと笑い、私の頭を撫で、肩を抱き寄せる。
政宗の肩にもたれかかると政宗の温もりに包まれて、このまま深い眠りに落ちて行きたくなる。
旅行に行く事を知らされたのは昨日の事だ。
まさか政宗と美紀が結婚式だけでなく、新婚旅行まで計画していたなんて知らなくて驚いた。
とても嬉しかったけど、そんな計画をこっそり二人でしていた事に少し妬けた。
でも、もし政宗に結婚しようと事前にプロポーズされてもきっと私は素直に受けられなかった。
どうしてもこの先の別れの事を考えてしまうから。
それに、戸籍も持たない政宗と結婚するなんて無理だと思ってしまっただろう。
きっと政宗も美紀もそれを分かっていたから。
私に秘密にしていた。
「ねぇ、政宗」
「ん、どうした?」
昨日は買い物や洗濯や荷造りで忙しくて、ずっと聞きたかったのに聞けなかったから。
私は思い切って尋ねた。
「結婚式をしようって言い出したのは、政宗?それとも美紀?」
政宗一人ではこんな大掛かりな事は出来ないし、結婚の手順もこの世界のやり方に沿っている。
もしかしたら美紀が言い出したのかも知れない、とも思う。
出来れば政宗から言い出して欲しかった。
何度か聞こうとして、でも躊躇ってしまって聞けなかった。
美紀だったら私のために、政宗をけしかける事だって考えられる。
政宗の意志であって欲しい…。
そう願いを込めて政宗のシャツをきゅっと握ると、政宗は私を抱く腕に力を込めて、私のこめかみにそっと口付けた。
「お前が泣くから…。他の男と結婚式をしたくねぇって。だから、他の男に奪われる前にお前を俺のものにしたかった。お前に打ち明けたらきっとお前はまた悩むから。悩む隙を与えないよう直前まで秘密にしたかった。俺はこの世界の祝言の事なんて何も知らなかったから、美紀に手伝ってもらった。美紀はプロポーズしてやればいいのにって言ってたぜ。お前が喜ぶならそうしてやりたかったけど。だけど俺はお前を悩ませたくなかった」
政宗の低い静かな声が鼓膜を心地よく刺激する。
甘い愛の囁きに胸の奥が疼く。
「もう、お前を悩ませたり傷付けたりしたくなかった」
政宗は一層私を強く抱き締めた。
「もうあんな風に傷付けたりしたくなかった。この世の誰よりお前を守りたいと思った。俺はもうすぐお前の前から消えるけど。この想いだけは永遠にしたかった」
政宗はそう言うと、私の左手を取り、薬指の指輪にキスを落とした。
そして私の指から指輪を抜き取って、指輪の裏に刻まれた言葉を私に見せた。
「With the bridal vow…」
「そうだ。贈りたい言葉はたくさんあったけど、刻み切れなかったから。結婚の誓いの言葉に俺の想いが詰め込まれている」
政宗はまた指輪を私の指に嵌めた。
「忘れるな、遙。例えお前と共にいられなくても、俺の心はいつもお前と共にある。忘れられないくらいにたくさん抱き締めてやる。目を閉じれば俺の温もりを、二人愛し合った事を思い出せるように。俺はいつでもお前を愛してる。こんなに慈しみたいと思うのはお前だけだから。だから、忘れるな…。俺の心はいつもお前と共にある」
政宗は私の頬に手を宛てがって、誓うように優しくキスをした。
政宗の全ての温もりで愛されていると感じる。
目を閉じると、私を包み込む政宗の逞しい身体の温もりと、柔らかな唇の感触に五感を支配される。
政宗の切ない願いが伝わって来て、涙が一筋零れた。
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