TRAIN-TRAIN -3-

4日分の着替えを入れたトランクを座席の脇に置いて、東海道線に乗る。
隣りに座る遙は相変わらず眠そうに目を擦り、欠伸をかみ殺した。

「Hey, 随分眠そうだな」

笑いながら頬をつつくと、遙は軽く溜め息を吐いた。

「政宗がそんなに元気なのが信じられないよ。昨日だって…」

言い澱んで薄っすらと頬を染める。
俺は喉の奥で笑った。

「昨日だってどうした?」
「そんな事、言えないよ。…意地悪」

ふいと顔を逸らす遙の肩を抱き寄せる。

「Sorry, come around. お前が可愛いからつい止まらなくなっちまう。乗り換えるまで2時間くらいあるだろ。それまで眠ってろ」
「折角政宗と遠出するのに何だかもったいないな。一緒に窓の外の景色見たかったな」

残念そうに言う遙の瞼は半分閉じかかっていて、まるで駄々を捏ねる子供だ。

「東京から西にあまり行った事ないもの。景色が見たいな」

すっかり閉じてしまいそうになる瞼を何度もハッとしたように開く仕草が可愛らしくて口許が緩む。

「Okay. じゃあ、景色が変わったら起こしてやるから。だからそれまで眠ってろ」

こめかみにそっと口付けを落とすと、遙は安心したように微笑んだ。

「うん…。約束…だからね…」

遙は俺の肩に頭を預けて目を閉じた。
やがて規則正しい小さな寝息が聞こえてくる。

遙が眠って間もなく電車が出発した。

車から見る景色とあまり変わりがない。
全体的にごちゃごちゃとした印象の、無機質な景色が通り過ぎていく。

この世界は便利さと引き換えに、自然の美しさを失ってしまっているようだ。
遠乗りに出かける時の澄んだ空気と木々のざわめきなんて果たしてこの世界にあるのだろうか。
人は忙しく動き回り、他人には無関心に見える。

俺が天下を統一して平和な世を作ったら…。
平和と便利な生活で人はこんなに他人に無関心になって、自分の殻に閉じ籠るようになるのだろうか。
出来れば、互いに助け合い、皆が笑って過ごせる温かい世にしたいと思う。

窓の外に見える、煤けたコンクリートの建物や汚れた川が目に入ると何だかやるせない気持ちになり、俺は遙に視線を戻した。

遙の周りだけ、まるで時が止まったように、柔らかで優しい空気に満ちているように感じる。
普段、部屋の灯で見る寝顔と違って、窓から差し込むひだまりの中の遙はいつもより、温かく生気に満ちて見えた。

揃えられた膝の上に置かれた手の薬指には、細く散りばめられたダイヤモンドが夏の強い日差しを受け、キラキラと眩く輝いていた。
遙の左手の隣りにそっと自分の左手を添える。
pairのringのダイヤがそれぞれ光を乱反射している。

俺と遙が結ばれた証。

それが何だか堪らなく嬉しくて。
くすぐったい気持ちになって。
遙の左手を手に取り、ringに口付けると、また膝の上に手を戻し、俺は飽きる事なく、遙の華奢な指に嵌められた指輪と遙の穏やかな寝顔を眺めていた。

もたれかかる遙の身体の温もりが愛しくて、そっと抱き寄せて、またこめかみにkissを落とす。

多くは望まない。
勿論、俺が帰ったら、天下は手に入れる。

それでも、本当に俺が欲しいのは。
愛しい女をこうして抱き締めて。
俺のものだとしみじみとかみ締める優しい時間だ。

二人の薬指に嵌められた指輪を見る度に幸せで胸の奥が甘酸っぱい気持ちでいっぱいになっていく。


今は哀しい事は考えたくない。
ただ、遙が本当に俺のものになったという幸せだけをかみ締めて。
例え、それが仮初のものだとしても。
俺達にとっては嘘なんかじゃない。
これが俺達にとっては真実なのだから。

俺と遙を分け隔てる時空の壁を今だけは忘れて。
夫婦として、甘く幸せな時を過ごそう。
運命が俺達を引き裂くその日まで。
俺は一生分の愛を遙に注ごう。

身体中に溢れる温もりでそれが伝わればいい。
そんな気持ちで俺は遙をずっと抱き寄せていた。
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