マンションのエレベーターが動くとすげえと声を上げ。
一歩外に出ると乱立するビルの群れを見上げてまたすげえと声を上げる政宗。
思わずくすくすと笑い出す美紀。
私も笑いそうになったけれど、異世界から来た政宗に失礼にあたると、必死で笑いを堪え、遠慮なく笑っている美紀をつついて諌めた。
政宗はそのまま立ち止まり動かないので、私は政宗の手を取り、地下鉄の駅へと歩いていった。
切符を買い、地下鉄を乗り継いで銀座に向かう。
地下鉄に乗る頃には、政宗は未知の世界を受け入れたようだ。
大人しく私に手を引かれてついてくる。
もうそろそろ手を離してもいいかな、と思い、手を離すと、政宗は指を絡めるようにして手を繋いできた。
所謂恋人繋ぎというものだ。
思わずはっとして政宗を見上げると、政宗は唇の端を吊り上げニヤリと笑っていた。
「はぐれたら困るだろう?」
「それはそうだけど…もう大丈夫でしょう?」
「あんたを見失ったら困るからな。しばらくこうさせてもらうぜ」
政宗は涼しい顔でしれっと答え、絡めた指にぎゅっと力を込めた。
繋いだ手がとても温かい。
政宗の指はとても長くてしっかりとした関節が男らしくて。
彼氏以外の男と手を繋いだのなんて幼稚園以来で、思わずときめきを感じてしまう。
このときめきが指先から政宗に伝わってしまいそうで、私は繋いだ手を握り返すことが出来なくて、そのままされるがままになっていた。
美紀は呆れたような笑みを浮かべつつも何も言わなかった。
確かにこの雑踏の中で政宗を見失うわけにはいかないのだから。
「遙さあ、明日の花火大会どうする?私、彼氏と行く予定なんだけど、遙も政宗と来れば?」
「そうだね。行きたいかも」
「花火ってなんだ?」
私と美紀は顔を見合わせた。
あれをどう説明すればいいのだろう…。
「美紀。花火って火薬と金属を反応させて色を出しているんだっけ?」
「炎色反応だよね、多分」
美紀がうーんと唸りながら呟く。
政宗は訝しげに首を傾げた。
「炎色反応?」
「うーん、説明するより見た方が早いから、明日私と一緒に花火見に行こうか?明日の夜ね」
「ああ、いいぜ。どうせ暇だしな」
私が政宗を見上げて言うと、政宗は口元をフッと綻ばせて答えた。
「遙も浴衣着てきてね。政宗は…ああ、元彼の浴衣あったっけ?」
「うん……。とんでもなくド派手なやつが…」
「あはは!大丈夫。政宗なら着こなせるよ。独眼竜は伊達じゃねぇ、you see?だもんね。あれ着たらどこぞのヤンキーだねえ。ふふふ、カメラ持って行かなくちゃ」
「What?妙なもん着せたらただじゃおかねぇぞ」
政宗が眉間に皺を寄せ、鋭い眼光で美紀を睨んだ。
私は小さく笑って、政宗の手を握り返した。
「そんなに心配だったらうちに帰って見てみてよ。気に入らなかったら普通の格好でいいからさ」
「Okay。花火の時だけ浴衣か…。浴衣で外出だなんてcrazyだな。やっぱり異世界って変わってるぜ…」
そう言えば、浴衣って昔のパジャマだもんね。
そんなものを着て外出するなんてcrazyだろう。
でも、きっちり着物を着こんで真夏に外出する方がよっぽどcrazyだ。
地下鉄のドアが開いたので私たちは会話を止め、ホームに下りた。
改札を出て地上に出るとギラギラとした日差しがアスファルトに反射し、熱気でむんむんとしている。
「暑いな……。奥州の夏と比べもんにならねえ。大阪だってこんなに暑くなかったぜ?」
「コンクリートの照り返しがきついもんね…。政宗、大丈夫?もうすぐ涼しいところに入れるから我慢してね。…暑いから手繋ぐの止めようか?」
私が手を放そうとすると、政宗はぎゅっと手を握ってきた。
拗ねた子供のような顔をしている。
何だか可愛らしい。
「それとこれとは話が別だ。城下も結構人がいるが、こことは比べ物にならねえ。手を放してあんたがふらふらとどこかに行ったら困るからな」
「ふらふらとどこかに行くのは政宗じゃないの?」
美紀が悪戯っぽそうに笑う。
「ああん!?可愛くないことを言うのはどの口だ!?」
政宗は私の手を放し、美紀の頬を抓った。
「いったーい!!何すんのよ!!」
「うるせぇ!!あんたが悪い!」
まるで子供のように戯れているような美紀と政宗が少し羨ましかったけど。
それ以上に、可笑しくて、私は声を上げて爆笑した。
すると、政宗は美紀を抓るのを止め、私をまじまじと眺めた。
そして、唇の端を吊り上げ、至極嬉しそうに笑い、私の頭をそっと撫でた。
「やっとあんたの笑顔が見られたな。あんたはやっぱりそうやって笑っている方がcuteだぜ」
政宗の笑顔があまりにも綺麗で。
私は思わず見蕩れた。
「政宗のタラシ〜」
「何だと、コラ!!」
「キャー、遙、私先行くね!!」
逃げる美紀も嬉しそうで。
心なしかホッとしたような顔をしているのは、やはり私に笑顔が戻ってきたからなのだろうか。
政宗は美紀を追わずに、再び指を絡ませるようにして私の手を握った。
「全く口の減らない女だぜ。あいつは放っておいてゆっくり行こうぜ」
「暑いからそうそうゆっくりもしていられないけどね。私たちも行こう?」
私たちは手を繋ぎながら銀座の雑踏をのんびりと歩いた。
繋いだ手がとても温かくて心地よくて。
この温もりをずっと手放したくなかった。
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