「私、携帯と音楽プレイヤーを見てるからさ、遙と政宗はPS2を修理に出してきなよ」
「うん、わかった。政宗、行こう?」
「Okay」
店の奥へと進むと、ゲーム売り場があった。
その入り口では発売されて間もない戦国BASARA2のデモ画面が流れていた。
出来れば政宗には見せたくなかったのだけれど。
政宗はその画面を見つめたまま固まっている。
「Oh my God, dude!!俺と小十郎が箱の中にいるぜ…」
「政宗、これはね、箱の中に人間がいるんじゃなくて、映像だけを流しているんだよ。政宗と小十郎はこちらの世界でも有名だからゲームになっているの」
「Game?遊戯のことか?俺達をgameのcharacterにするなんてな…。Crazyだぜ」
画面が切り替わり、オープニング画面になる。
政宗と幸村が戦う場面になると、政宗の眼光が鋭くなった。
「真田幸村もいるのか…。あいつも有名なんだな」
「うん、そうだね…」
私は、政宗をそのままにしておくべきか迷った。
政宗はデモ画面の前から動く気配がない。
「どうする?政宗。しばらくこれを見ている?出来れば政宗は異世界からやってきたから、そのことがバレると大騒ぎになるし、騒ぎを起こさないで欲しいんだけど。やっぱり異世界から人がやってくるって現実じゃ滅多にないことだから、バレたら大変なことになるんだよ?政宗は有名人だし」
「Ah〜、let's see…。もうしばらく見ててもいいか?あんたの言う通り、不審な行動は取らねえ。安心しな。この機械を修理に出すんだろ?俺はここで待ってるから行ってこい」
「うん、わかった。なるべく早く戻ってくるから」
「Gotcha. See you soon」
私は政宗からPS2の入った紙袋を受け取ると、サービスカウンターへと向かった。
古いタイプのPS2を修理に出す事に不審がられ、最新機種を勧められたけれど、私は修理を依頼した。
部品の取り寄せなどが生じると、修理完了に時間がかかるらしく、やはり1ヶ月くらいはかかりそうとのことだった。
それでも、政宗が帰れる可能性にかけるしかない。
私は伝票を受け取り、政宗の元へと戻った。
先ほど別れた時と寸分変わらぬ姿勢で政宗はデモ画面を見つめていた。
政宗の腕を少し引くと、身体をびくりと震わせ、政宗は私の方を振り返った。
「Oops, sorry。夢中になってたみたいだぜ」
「修理、やっぱり1ヶ月くらいかかるみたいだって」
「そうか。あんたには世話になるな、悪ぃ」
申し訳なさそうに視線を落とす政宗に、私は笑顔で首を横に振った。
上手く笑えてるかな…。
「いいよ。政宗のせいじゃないもん。BASARA2面白かった?」
「ああ。名前は聞いたことがあるが、顔は知らねえ武将も出てきたからな。技の情報も多少はあった。帰ったら小十郎とこれからの戦について話し合わねえとな」
「そう…。政宗が退屈しなくてよかった」
画面に目を戻すと、政宗のオープニング画面が流れているところだった。
私は思わず、画面の政宗と隣に並んでいる政宗を見比べ、そして、小十郎を見つめた。
「小十郎ってさ、格好いいよね。声も渋いし、頼れる兄貴って感じで。小十郎の声を聞くと何かドキドキする」
「あんた、小十郎みたいなのが好みなのか?」
「ん?結構好きだけど?」
政宗を見上げると、少し不機嫌そうな顔をしていた。
私は訝しげに首を傾げた。
「政宗も小十郎のこと好きでしょう?本当のお兄さんみたいに思っているよね?」
「まあ、それはそうだが……shit!I can't explain」
政宗は再び私の手を取り、指を絡ませぎゅっと握り締めてきた。
「遙……。俺は……?」
「え……?」
「いや、何でもねえ。Never mind」
そう言った、政宗の表情が少し寂しげで気になったけど、とても追求できるような雰囲気ではなかった。
私は話題を切り替え、美紀を迎えに行こうと提案した。
「Ah〜、あの女なら放っておいてもよさそうだけどな」
「もう、そういうこと言わないでよ。私の親友なんだから」
「ああ、そう言えばそうだったな」
政宗は悪戯っぽく笑うと、私の手を引いて歩き出した。
「Okay, let's go!」
私は政宗と手を繋いだまま、美紀のいるフロアへと向かった。
音楽プレイヤーを物色していた美紀が、私たちに気付き、手を振る。
「遙、どうだった?」
「修理、一ヶ月かかるって」
「そうなんだ…。その間、政宗の面倒見るの大変かも知れないけど、何かあったら声をかけてね。それで、この後どうする?」
心配そうに問いかける美紀に小さく笑って答える。
これ以上心配をかける訳にはいかない。
「うーん、特に用事はないんだけど」
「折角銀座に来たし、私はネイルサロンに行ってくるね。大学ある間は、実験があるからネイル出来ないじゃない?折角の夏休みだし、スカルプしてくる」
「うん、わかった。じゃあ、私は政宗と出かけるね」
「Oh〜、やっと遙と二人っきりになれるな」
人の悪そうな笑みを浮かべて政宗が美紀を挑発する。
すぐに美紀は政宗に食って掛かった。
「政宗、遙に変なことしたら承知しないからね!」
「するかよ。俺の恩人だしな。大切にするぜ」
「もう、美紀も政宗も止めてよ。私たちなら大丈夫だから、ね?」
二人の間に入り、交互に宥めるように視線を合わせると、ようやく美紀がやれやれというように溜め息を吐いた。
「はぁ、しょうがないね。んじゃあ、くれぐれも気を付けてよ」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。じゃあね!」
溜息をついて頭を振っている美紀に別れを告げて、私達は電気屋を出た。
途端にむっとした熱気に包まれる。
隣りを歩く政宗を見上げると、げんなりとした顔をしている。
「暑いね…。どこかに入ってアイスクリームでも食べようか?フラペチーノでもいいし」
「アイスクリーム?フラペチーノ?What are they?」
「うーん、冷たいお菓子ってところかな。政宗は甘いの大丈夫?」
「It depends.(程度によるな。)あまり甘いのは苦手だ」
「んじゃあ、コーヒーショップに入ってフラペチーノを食べようよ」
「あんたに任せるぜ」
電気屋から少し離れた所にコーヒーショップがある。
そこで私達はフラペチーノを注文し、ゆったりと寛いだ。
クーラーで冷やされたひんやりとした空気の中で、冷たいフラペチーノを食べるのはとても贅沢な時間だ。
ほろ苦いコーヒーと濃厚なクリームの味が、政宗の気に入ったらしい。
嬉しそうな顔をして、ストローからゆっくりとフラペチーノを飲んでいる。
「あんたの世界、高い建物ばかりだな。目が回りそうだぜ」
「うん、そうだね。でも、もっと高い建物から遠くが見渡せるよ。天守閣から城下を見る感じかな。でもね、夜になると、灯りがついて、とっても綺麗なんだ。後で見に行こうか?」
「Really?それは楽しみだぜ。で、この後はどうする?」
「特に決めてはいないんだけど…。遊びに行こうか?」
「遊び」と聞いて政宗の目がキラキラと輝いた。
「遊びか?どんな遊びだ?」
「ん?海外から伝わってきた遊びなんだけど。ビリヤードって言うの」
「ビリヤード…。聞いたことがねぇな。城にいる時は執務ばかりだし、戦にも行かないといけねぇだろ?あんまり遊んだ記憶がねぇんだよ。異世界に飛ばされたことだし、この機会にゆっくり羽を伸ばすか」
「フフフ。私も大学がある時は忙しくてあまり遊べないから、政宗と遊べて嬉しいな」
「Glad to hear that。じゃあ、早速行くか?」
「うん!」
コーヒーショップを出て、今度は渋谷に向かう。
馴染みのビリヤード場があるし、夕飯の食材を買うのに都合がいいからだ。
地下鉄を乗り継いで渋谷に向かってる最中も、ずっと政宗と手を繋いだままだった。
もう、それが当たり前のように感じてしまうほど、政宗の手の感触に馴染んだ自分がいる。
ついこの間、彼氏と別れたばかりだというのに。
政宗の隣りは居心地がよい。
政宗はいずれは消えてしまうのに。
ずっとこのまま温もりを感じられていればいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
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