一口食べた政宗は、顔をしかめてWeirdと呟いた。
甘いクリームに少しツンとするワサビの後口が気に入らなかったらしい。
慌ててスポーツドリンクを流し込む姿を見て思わず笑ってしまった。
呆れたように政宗が私を見遣る。
「お前、それ、美味いと思うか?」
「ん?別に。何だか旅行に来たんだなって気分になるから。東京では見掛けた事ないし」
「Oh, I see. 珍味か」
「うん。面白い味だなって思う」
「何もワサビをこんなものに入れなくてもいいのにな。もっと美味い食い方もあるのに。未来人の考える事は分からねぇ」
政宗はやれやれとばかりに頭を振った。
「慣れると結構美味しいよ?」
「頼むからその味覚は忘れてくれ。帰ったら、俺が美味い物作ってやるから。な?」
驚いたような表情から一転心配そうな表情になる政宗を見て私は笑ってしまった。
ワサビのアイスは毎日食べたいと思うほど美味しくはなかったけれど。
この味も、政宗と他愛もない会話をしながら食べた忘れられない味になる。
それも、政宗との新婚旅行に行った時に食べたものなら尚更だ。
政宗には笑って頷いてみせたけど。
それでも私は忘れたくない。
ようやくアイスを平らげて、私達は再び電車に乗った。
電車に乗る事約30分。
私達は伊東駅に着いた。
そこからタクシーに乗って宿に向かう。
政宗にどんな宿か聞いても笑ってはぐらかされてしまった。
タクシーは海の方へと走っていく。
少し寂れた印象の、のどかな街の雰囲気に、気持ちが穏やかになっていく。
やがて、海沿いの道路に程近いホテルの前にタクシーが止まった。
部屋から海が見えるかも知れないと思うとどうしようもなくワクワクして、トランクからキャリーを出した政宗を振り返ると、政宗は満足そうに笑った。
「部屋から海が見えそうだな」
「うん!すごく楽しみ。伊東だから温泉に入れるんでしょう?」
「ああ、そうだ」
「政宗、ありがとう!」
キャリーを引っ張って歩み寄って来た政宗は柔らかく微笑んで、私の頭をくしゃりと撫でた。
「美紀にも礼を言っとけ。見付けたのはあいつだ」
「うん、分かった。後でメールしておく」
「さあ、行くぞ」
私は政宗に手を引かれてホテルのエントランスをくぐった。
外見は高層ホテルのような造りなのに、中は和風の旅館のようなたたずまいだ。
政宗に手を引かれて、チェックインするためにフロントへ行く。
「伊達藤次郎で予約しているんだが」
従業員の男性は宿帳をめくり、名前を確認するとにっこりと微笑んだ。
「伊達藤次郎様と伊達遙様ですね。ご結婚おめでとうございます」
まさか伊達の名前で予約されているなんて思わなくて。
新婚旅行という事で予約されているなんて思わなくて。
思わず驚いて政宗を見上げると、政宗は満足そうにニヤリと笑った。
「Honey, まだ結婚した事が信じられねぇのか?お前が実感出来るまで、ゆっくりと可愛がってやるよ」
軽く私の頬に口付けて、そっと頬を撫でる。
従業員さんは、微笑ましそうに私達を見ていた。
「ごゆっくりとお過ごし下さいませ」
彼は私達に部屋の鍵を渡し、ホテルの造りを説明すると、私達を部屋へと促した。
伊達遙…。
まさか伊達姓を名乗る事になるなんて思わなかった。
本当に私は政宗と結ばれたんだという実感が急に押し寄せてくる。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にならない。
私、政宗と結婚したんだ…。
胸がドキドキと高鳴って苦しいくらいだ。
「伊達遙…」
私がそう呟くと、政宗は嬉しそうに笑い、私の手をきゅっと握った。
「そうだ。お前は俺の正室…妻だ。お前はもう伊達の人間だぜ?」
「名字が変わる事がこんなに嬉しい事だと思わなかった。私は生涯如月の人間だと思っていたから…」
「お前は俺のものだ。せめてここにいる間だけは、現し世のしがらみを忘れて『伊達遙』でいろ。いいな?」
政宗に引き寄せられ、そのまま抱き締められる。
優しく蕩けるような口付けが唇に落とされ、甘く幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
今だけは現実を忘れて。
政宗の妻でいたい。
伊達遙でいたい。
切ないほどにそう願った。
⇒Next Chapter
しおりを挟む
top