もうそろそろ日付が変わる頃だ。
余程文を読まれるのが嫌なのか、ずっと俺にまとわりついて邪魔をする。
普段はそういう事はしないくせに、珍しく俺を誘ってくるものだから、つい乗せられてしまった。
腕の中で眠る遙を眺めて溜息を吐く。
「普段もそうやって誘ってくれたらいいのにな」
苦笑いを浮かべて遙の頬をつつくと、遙はむずがるように俺の胸に顔を埋めた。
遙の頭の下からそっと腕を引き抜いて、浴衣を羽織る。
窓際のテーブルの上に置いていた封筒を開ける。
中からは英文の手紙が出てきた。
どうしても日本語で綴るのが恥ずかしかったのかと思い当たって口許に笑みが上った。
日本語の文字は下手なくせに、やけに綺麗なアルファベットが目を引いた。
『Dear Masamune,
It's kind of strange to write a letter for you.
For now, whenever I want, you hold me, say you love me, give me your warmth, and fill my heart with your love.
I've never felt like this before.
I can't really explain, but I'm sure that I'm the happiest person in the world, maybe even in the universe.
I think our encounter was a destiny.
Even though the fate tears us apart, I know you would hate to hear it, I'll remember you always.
I'll remember your voice, your smile, your kisses, your holding me, your warmth, your everything.
I don't think I can love anyone else.
I would miss you so much, but I'm sure I can be happy from our memories.
I love you, Masamune.
I can't express how much I love you.
Even if I'm not around you, I'll still love you.
I'll think of you always.
You'll be in my heart forever.
So, please remember me. Don't forget me.
You are everything to me.
With all my love,
Haruka』
『政宗へ
政宗に手紙を書くのは何だか不思議な感じ。
今は、私が求めればいつだって、政宗は抱き締めてくれるし、愛してるって言ってくれるし、温もりをくれて、私の心を政宗の愛で満たしてくれる。
今までこんな風に感じた事はないの。
上手く説明出来ないけど、私は、世界中で一番、きっと宇宙の中ですら一番幸せな人間だっていう自信がある。
私達の出会いは運命だったんだね。
そして、もし、運命が私達を引き裂いても…こう言うと政宗が嫌がるのは分かっているけど、私はいつでも政宗の事を忘れないよ。
政宗の声も、笑顔も、キスも、抱き締めてくれた事も、温もりも、政宗の全てを忘れない。
私はきっと、政宗以外の誰も愛せないと思う。
別れてしまったら、きっと恋しくて堪らなくなると思うけど、でも、きっと思い出だけで私は幸せになれるの。
政宗、愛してる。
どれだけ愛してるか伝えられないくらい。
もし、傍にいられなくても、それでも私はずっと政宗を愛してる。
いつでも政宗の事を思っているよ。
いつでも、私の心の中にいるから。
だから、お願い。私を覚えていて。忘れないで。
政宗は、私の全てなの。
全ての愛を込めて。
遙』
ラスト7行は涙で滲んで文字がぼやけた。
連れて帰るって言ったじゃねぇか。
何で分からねぇんだよ!
何で別れの間際みたいな手紙を書くんだよ!
それでもきっと、遙が思っている事が俺達の現実に思えた。
この手紙を持ち帰れるか分からないが、それでも望みを託して、遙は精一杯の自分の思いを綴ったのだと思う。
別れた後も、自分の想いが俺の手元に形として残るように。
切ないくらいに、胸が痛いくらいに遙の想いが伝わってきた。
どれほど真っ直ぐに俺の事を思っているか伝わってきた。
全ての思いを込めて愛している事が遙に伝わっていて嬉しかった。
俺に愛されて幸せだと言ってくれて嬉しかった。
俺もお前の温もりを、笑顔を忘れねぇ。
いや、忘れられねぇ。
お前のように、俺達の今を美しい思い出に出来るか分からねぇけど、それでも今こうして愛し合っている幸せを俺は忘れねぇ。
今になって分かる。
何故遙が俺に手紙を読ませなかったか。
これを読んだら俺が取り乱すのを遙は知っていたから。
それを俺が誰にも見られたくない事を遙は知っていたから。
もう一度手紙を読み返して、俺は、手紙を胸に押し抱き、声を殺して泣いた。
遙の想いが、ただただ切なかった。
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