初めて見る遊具が物珍しくて、片っ端から面白そうな乗り物に乗っていく。
ジェットコースターは、馬で崖から飛び降りるのに似ていてどこか懐かしささえ感じた。
悪趣味な事に、恐怖に叫ぶ人々の写真を撮る機能がある事に俺は気付き、遙をまたジェットコースターに誘った。
二度目はカメラのシャッターが切られる瞬間、遙にキスをした。
外に出ると、モニターに写し出されている写真を見て人々が声を上げて俺と遙をチラチラと見る。
恥ずかしがる遙を可愛いと思いながら、遙の制止を無視して俺は写真を買った。
「政宗!プリクラじゃないんだから!もう、恥ずかしい!」
遙はジェットコースターのコーナーから出ても、抗議するように頬を膨らませていた。
「別に減るもんじゃねぇしいいだろ?綺麗に撮れてたじゃねぇか」
「もう…。もう一度乗りたかったのに戻れないよ、恥ずかしくて」
「へぇ。お前、意外にああいう風にthrillがあるのが好きなんだな。じゃあ、あれなんてどうだ?」
俺は、horror houseと思しき建物を指差した。
俺の時代の建物に似ているその建物は、おどろおどろしい雰囲気を放っていた。
途端に隣りを歩いていた遙が固まる。
「…怖いの苦手…」
「あれってhorror house…幽霊屋敷か?」
「うん…。お化け屋敷。あれ、きっと歩いて入るやつだよね。無理無理!歩けなくなっちゃう」
「俺がいるから大丈夫だ」
「でも…」
「thrillがあるのが好きなんだろ?」
遙が嫌がる事なんて普段は絶対にしないのに、興味が沸く。
暗がりの中、怯える遙が俺に抱き付くのを想像すると、その姿を見たいと思う。
危害がないのが分かっているなら尚更だ。
遙が危険な目に遭っていて怯えているなら相手を許せそうにないが、作り物なら別物だ。
好きな女ほど苛めたくなると聞いた事がある。
遙を傷付けるつもりは毛頭ないが、これは面白そうだ。
俺は渋る遙の肩を抱いて、お化け屋敷に入って行った。
お化け屋敷の中は薄暗く、かろうじて通路が見える程度だ。
遙は不安そうに俺に寄り添う。
「政宗、絶対に離れちゃ嫌だからね」
おどろおどろしい音楽と相俟って、遙は余程怖いのかきょろきょろと落ち着きがない。
曲がり角を曲がった所で、急に仕掛けが動いて、絹を裂くような叫びと共に闇の中から血を流した人形が現われた。
「きゃああっ!」
遙は悲鳴を上げ、俺にしがみつくように抱き付いた。
腕の中で震える遙が妙に可愛い。
怯える女がこんなに可愛いと思ったのは初めてだ。
やべぇ。
こいつは癖になりそうだぜ。
俺からしてみれば、夜襲の時と明るさは変わらず、見え透いた仕掛けで気配もバレバレだ。
俺にとっては子供騙しだが、それで遙が怖がるのなら可愛いもんだと思う。
天井からばさりと人形が逆さに降って来て遙は悲鳴を上げながら俺に抱き付いた。
「やだやだ、怖い!」
少し歩くと、唐突に壁から手が出て来て遙はまた俺にひっしと抱き付く。
足元だけがぼんやりと照らされているこの部屋の中では、遙には次に何が起こるのか分からないのだろう。
急に現われる幽霊の仕掛け全てに遙は見事に引っ掛かる。
俺しか頼るものはないというように、腕の中で怯える遙は可愛かった。
背中を擦ってやると少し落ち着くものの、びくびくと怯えながら、俺にしがみつくように歩みを進めていくのがいじらしい。
優しい笑みを浮かべて俺の腕の中にいる遙も愛しいが、今の状況も堪らなくときめく。
ここには本当の恐怖はない。
作り物の恐怖は何の危害もなく、俺は時折遙をからかいながら、純粋に遙の反応を楽しんだ。
出口付近で怨霊に身をやつした男に追いかけられると、遙はもうパニックを起こして、悲鳴を上げながら俺の腕の中で震えていた。
恐怖で足がすくんで動けないらしい。
ひたすらに俺に抱き付き、悲鳴を上げながらかたかたと震える。
お化け役の男と目が合って、俺達は密やかに苦笑いを交わした。
「遙、心配すんな。怖かねぇよ」
遙を抱き上げると、遙は子どものように俺の首に縋った。
俺は遙を抱き上げたまま、出口に向かった。
お化け屋敷から出ると、遙はホッとしたように息を吐いた。
抱き上げていた遙を降ろしてやる。
余程怖かったのか、遙は少し涙目だった。
「そんなに怖かったか?」
「だって、急に後ろから追いかけてきたりするんだもん。自分の足で歩くお化け屋敷は苦手。でも…政宗がいたからまだ大丈夫な方だったんだよ?もう行かない」
「俺はもう一度行ってもいいけどな。熱烈に抱きついてくるお前も可愛い」
「やだやだ!」
遙は頬を膨らませて俺を見上げた。
少しあどけないその表情が妙に可愛らしくて思わず笑みが零れる。
「政宗は怖くないの?」
「気配で分かるからな。温いくらいだぜ」
「気配で分かってたの?なら教えてくれれば良かったのに!」
遙は拗ねたように顔を背けた。
それでも肩を抱くと、甘えたように身体を寄せてくる。
「機嫌直せよ。次は楽しい乗り物に乗ろうぜ」
あれなんてどうだ?と指を指そうとした先に奇妙な一団を見付けた。
俺や小十郎や真田幸村の格好をした奴等がいる。
そいつらはカメラを構えてお互いの写真を撮っていた。
隣りの遙もそれに気付き、ハッとしたように身をこわ張らせた。
「何なんだ、あいつら。何で俺の格好をしてやがる」
Cheapな造りだが、俺の甲鎧にそっくりだった。
何だか胸騒ぎがして俺が奴等に近付こうとすると、遙は首を振って歩みを止めた。
「政宗、止めようよ」
「Why?」
遙は口を噤んで困ったような悲しそうな表情を浮かべる。
しばらく忘れかけていた疑念がまたふつふつと沸いてきた。
俺はgameの中の人間じゃねぇかという疑念が。
何で俺とまるっきり同じ甲鎧を着ているんだ。
何で同じ髪型なんだ。
何で同じ刀の構え方なんだ。
400年以上のタイムラグがあって、こんなにも正確に伝わる訳ねぇだろ?
俺の時代には写真なんてものはねぇ。
遙を引きずるようにして、その一団に近付くと、奴等の一人が俺に気付いて驚くように目を瞠った。
「あれ?あの人、政宗に似てない?現代パロ合わせの話なんて聞いてないよ?それにしても、水着で政宗コスってすごいね!水着なのに何であんなに似てるんだろ」
伊東のゲームセンターでも似てると言われた。
城下の人間ですら、俺が庶民に身をやつしたら分からないというのに、何で400年も経ったこの世界で俺の事が分かるんだ。
俺だけじゃねぇ。
小十郎も真田幸村も猿飛までもがそっくりだ。
そう。
それはまるで直接俺達を真似ているかのようにそっくりだった。
「すみません。一緒に写真を撮ってもいいですか?」
にこやかに話しかけられて、遙は俺の腕を強く引いた。
「政宗、逃げよう」
遙は俺の手を引き、踵を返した。
「遙!」
心の中に言いようのない苛立ちが募っていく。
何で遙は逃げようとするんだ。
何であいつらは俺達と同じ格好をしてるんだ。
そして…。
ずっと不思議に思っていたが、何でPS2が俺の世界に繋がってるんだ。
あれはgameの機械だろ?
遙に手を引かれながら走っているうちに、俺はまたある一団を見付けて今度こそ足を止めた。
俺の視線の先にはティーダとユウナの格好をした奴等がいた。
パズルのピースが繋がるように疑念は確信に変わっていった。
あいつらは、gameの中の人間の格好を真似している。
つまり…俺もgameの中の人間。作られた人間という訳だ。
自分のidentityが、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく気がした。
遙は俺を見上げ、今にも泣きそうな表情をした。
「遙…」
やけに喉が渇いたように掠れた声しか出て来ない。
「俺……やっぱりgameの中の人間なのか…?」
遙は無言のまま、目にいっぱい涙を溜めた。
首を縦に振る事も横に振る事もなかったが、その涙が答えを雄弁に物語っていた。
涙が溢れ出すと遙は縋りつくように俺を抱き締め、声を殺して泣いた。
足元が掬われたような絶望感に軽い目眩を感じる。
俺の人生は一体何だったんだ。
天下統一の夢は。
俺の記憶は。
俺を支えてくれた奴等は。
遙との恋は。
全てが作り物だと言うなら、俺は何も信じられなくなりそうだった。
遙…。
お前は俺が作り物だと知っていて恋をしたのか?
愛したのか?
あるいはその愛すらまがい物だったというのか?
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