そう言うのが精一杯だった。
口を開けば遙をなじってしまいそうだった。
激情のまま、遙の肩をがくがくと揺さぶって問い質してしまいそうだった。
それをしなかったのは、最後のなけなしの理性だった。
こんな所で遙を泣かせたくない。
激情のまま、遙をなじってここを飛び出せば、俺に一体何が出来る?
俺に何も出来ない事は、以前美紀を頼った時に実証済みだった。
あの時、俺は遙の弁解を聞かないまま、もう遙をなじったりしないと誓った。
怒りを、哀しみを堪えるのは予想以上に辛かった。
遙の愛すらまがい物だったらという考えが胸を過ぎる度、苦しくて堪らなくなる。
それでも…。
こんなにボロボロの状態になってすら、俺は遙を嫌いになれなかった。
全てを捧げてもいいと思うくらいに愛した女だ。
もし、俺が作り物だと最初から遙が知っていたのだとしたら、何て残酷だろうと思うが、憎いとすら思うが、その一方で、やはりどうしようもなく好きで堪らなくて、愛していて、心が千々にかき乱れる。
不義を働いた妻を目の前にしたらこんな気持ちになるのだろうか、とやけに冷静に考える自分もいる。
裏切られた悔しさと、哀しみと。
それでも心の奥底では相変わらず愛していて。
どろどろと胸の奥で色々な感情が渦巻く。
俺自身、こんな所で言い合う気分になれなかった。
早く落ち着く場所に行きたい。
俺達が愛を深めて来たあの部屋へ。
遙は無言で頷くと、俺の後を数歩遅れてついてくる。
いつも繋いでいた手の温もりはもうない。
それが遙の答えのようで。
もしかしたら、俺が考えている以上に現実は酷いもののように思えて。
不安で苦しくて堪らなかった。
結局、俺達はほとんど言葉を交わす事もなく、遙の部屋に帰り着いた。
三度目の花火を一緒に見る願いは叶えられる事はなかった。
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