メビウスの輪 -3-

夜遅くまで語り合い、政宗に抱かれてそのまま腕の中で眠る。
毎日ではないけれど、午後からは夕方まで本屋や博物館や図書館に出かけたり、合間を縫ってデートをしたり。
時折皇居外苑で羽を伸ばしたりながら、また夜遅くまで一緒に映画やPCや本を駆使して勉強をした。
休憩時間には、毎日政宗はエレキギターを弾いて欲しいと私にせがみ、一緒に色々な歌を歌った。
そして、政宗は、必ず甘く優しい時間を確保し、哀しい別れから目を背けるように、甘く優しいキスを繰り返しながら、愛を囁いた。

それをただ繰り返す。
時間は無情にも過ぎていく。

二人の別れのカウントダウンはもうすぐ終わってしまう。
政宗の温もりがいつも傍にあるのが当たり前になっていて。
自分は政宗の世界に行けない事を受け入れているはずなのに、その温もりを手放さなくてはならないと思うと政宗の温もりが愛し過ぎて、離れがたくて。
眠る時間が来てもなかなか寝付く事が出来ない。
温もりを記憶に刻み付けたくて、眠気に抗う。
政宗も同じように感じているのか、以前より眠らなくなった。
二人で明け方近くまで温もりを分かち合う。

時に激しく。
時に優しく。

迫り来る別れの足音に怯えるように、私達は性急に抱き合い、政宗は何かを恐れるように、私に何度もより深い快楽を刻むようになった。

別れが近付くにつれ、それが辛くて現実から目を逸してしまう。
縋るように政宗の温もりを求めて、その温かな腕の中にいても、心がかき乱される。

苦しくて。
苦しくて。
でも、その温もりは相変わらず愛しくて。心地よくて。
政宗が好きで堪らなくて。
政宗にぴったりと寄り添う。
政宗は私の髪を撫でた。

「いよいよ明後日か…」

掠れた声で政宗が呟いた。
そして、私の右耳のピアスをいじった。

「痛むか?」
「ううん、もう全然痛くない。もうそろそろ消毒もしなくていいね」
「そうか…。これからも絶対に外すなよ?俺も絶対に外さねぇ」
「うん」

政宗は私のピアスにそっと口付けを落とした。

「長いようで短い夢だったな…」

茫洋とした口調で政宗が呟いた。

「お前と出会ってから、約1ヶ月半か。誰かをこんなに深く愛するなんて思ってもみなかった。そして、永遠に会えなくなるなんて、な」

吐息を震わせて政宗が私を抱きすくめる。

「俺達の恋が運命だったら、一体それに何の意味があったんだろうな。俺自身の正体を知ることだったのか。それともお前から未来を学ぶことだったのか。俺はただ、お前が欲しいだけなのに。お前がずっと俺を見守ってくれるのは分かっている。でも、この腕にお前を抱けなくなると思うだけで狂いそうだ」

政宗は何度も愛してると囁きながら、口付けの雨を降らせる。
その愛の言葉は哀しみに濡れていた。

政宗の想いが伝わってきて、胸が苦しくなる。
それでも、私には伝えなくてはならない事があった。
政宗の髪を撫でて、視線を合わせる。

「政宗、私を愛してくれて、ありがとう。誰かに愛されて、こんなに温かくて幸せな気持ちになった事、今までにないよ。いつでも政宗の温かな気持ちと温もりに包まれて、涙が零れるくらいに幸せだった。見つめ合うだけで、いつでも満たされたよ。きっと、私達の出会いは、この恋のためだったんだよ。私も政宗も好きな人とは結ばれないから。一生分の幸せを分かち合うために出会ったんだよ。私はそう信じてる。政宗、ありがとう。愛してる。これからもずっと。政宗だけを愛してるよ」

ありがとうと何度も繰り返す。
政宗の瞳に涙が盛り上がって、それが零れる前に唇を奪われた。
口付けを交わすと、二人の涙が交じり合った香りがした。
互いが溶け合い混ざり合うほどに強くかき抱き、唇を重ねる。

「Thank you for loving me. I'll never forget you. お前の微笑みがいつでも俺の安らぎだった。お前の優しさも、俺の右目を愛してくれたことも、俺を受け入れてくれたことも、全部。お前に触れるといつでも気持ちが溢れ出した。自分にこんなに温かな感情があったのかと驚くくらいに。いつでも俺はお前に癒されていたんだ。遙、愛してる。切ないくらいにお前の愛に包まれて、俺はいつでも幸せだった。俺も、お前だけを愛してる、永遠に。お前に愛されて、本当に、本当に俺は幸せだった」

言葉を震わせると、政宗は私の首筋に顔を埋めて身体を震わせた。
首筋に温かな雫が伝っていく。
私も政宗の背中を抱き締めて、涙を流した。

二人の思い出が走馬灯のように流れていく。
龍恋の鐘の前で告白されて驚いたこと。
飽きることなく抱き合ったこと。
喧嘩したこと。
神の前で永遠の愛を誓ったこと。
新婚旅行の真似事をしたこと。

全部、宝石のように煌く思い出ばかりだった。
いつでも政宗の愛に包まれて幸せだった。

離れたくない。
切ないほどにそう願う。

でも、離れてしまうのが私達の運命だから。
最初から分かっていたことだから。
だから、私は口に出来なかった。

その代わり、政宗の温もりを一生忘れないように、身体と心に刻み付けよう。
そう心の中で誓って、強く政宗を抱き締めた。
その香りも、肌の感触も、艶やかな髪の感触も、甘い声も、何もかも忘れたくなくて。
私達は、ただ、お互いの存在を身体に記憶に刻み付けるように抱き合った。

夜が明けたら政宗が帰るための準備をしなくてはならない。
それまでの刹那の間、切ないほどに、優しく、優しく、私達は愛を分かち合った。


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