帰りに、デパートで風呂敷を買う。
こうして政宗が帰る準備をしていると、もう会えなくなるんだという実感が胸の奥に広がって行って切なくなる。
家に帰り、二人で荷物の整理を始めた。
持って帰れるか分からない。
それでも、二人で過ごした日々の面影を持って帰れればいいと切ないほどに願う。
二人の写真がつめ込まれたアルバム。
私が書いたラブレター。
竜のZIPPOとオイルと石。
KOOL。
片翼のロケット。
お気に入りの紅茶の葉。
私の書き込みがある世界史の資料集。
買ってきた本。
全ての荷物をまとめても、風呂敷一枚でまとまってしまうくらいに荷物は少なかった。
クローゼットの中には政宗の服がたくさん残されていた。
扉を開けるたびに、私は政宗が帰ってくるのではという錯覚に囚われるのだろうか。
ぼんやりとクローゼットの中を眺めていると、政宗が私を後ろから抱き締めた。
「遙。約束のpresentだ」
そう言うと、身体を離し、後ろからふわりとネックレスがかけられた。
政宗がいつも身につけていた悪魔十字のペンダントだった。
「俺が身に着けていたものをやるって約束してたからな」
「持って帰ってもいいのに」
「いや、お前に持っていて欲しい。俺、お前からもらってばかりで、お前にやれるものなんてほとんど持ってねぇからな」
「そんなことないよ。でも、嬉しい。ありがとう」
クローゼットの扉につけられた鏡に映る自分を眺める。
少しごついそのペンダントは政宗の胸に揺れている方が似合っているけれども、こうして好きな人がいつも身に着けていたものを着けるのは嬉しい。
胸の奥がキュンとときめく。
政宗はもう一度私を後ろから抱き締め、頬にキスをした。
「遙、お前にやりたい物がもう一つある」
政宗はそう言うと、自分の荷物の中から懐刀を取り出して、私に差し出した。
黒漆の鞘に、蒔絵の竹に雀の家紋が散りばめられている、綺麗な懐刀だ。
「これを、お前に」
「え?こんな大切な物、受け取れないよ。だって、この家紋…。政宗しか持てない刀でしょう?」
「大切だからこそ、お前に持っていて欲しい。刀には魂が宿る。魔除けにもなる。お前を全ての災いから守るためにも、持っていて欲しい。俺が傍にいられないなら、この刀がきっとお前を守ってくれる」
政宗は私に懐刀を握らせた。
小さな刀なのに、ずっしりと重い。
鞘から少しだけ刀身を抜くと、綺麗な刃が姿を覗かせた。
まるで、政宗自身のように、鋭くて、しなやかで、綺麗。
会えなくなっても、この刀身を見れば、政宗を鮮やかに思い出せるような気がした。
「ありがとう。この刀、大切にするね」
「ああ。俺の宝だからな。お前にやれるものがあって良かった。本当は俺自身がお前をずっと守っていたかったけど…」
政宗は切なげに眉を顰めると、私を抱きすくめた。
「この世界の誰よりも、お前を守りたい。ずっと守っていたかった。ずっと傍にいたかった」
痛いくらいに私を抱き締める政宗は震えていた。
私もずっと政宗の傍にいたかった。
政宗を強く抱き締める。
「遙、愛してる。もう、傍にいてやれなくなるけど、それでも俺はずっとお前を愛してる。離れてしまっても、ずっと。それだけは忘れないでくれ」
「政宗も忘れないで。ずっとずっと好きだから。こうして抱き合った温もりを忘れないで。違う誰かと添い遂げても。例えその人を愛しても」
「お前以外の誰かを愛せるわけねぇだろっ!だから、お前ももう一度誓ってくれ。俺以外の誰も愛さないと」
「うん。ずっと、政宗だけを愛してるよ」
視線を合わせると、どちらからともなく口付けを交わした。
誓いを込めて、何度も。
「明日、俺は帰る。でも、その前にもう一度だけデートがしたい」
「いいよ。どこに行きたいの?」
「皇居外苑がいい。美紀も呼んでくれ」
「うん、分かった」
明日は最後のデート。
それが終わったら、もう二度と政宗に会えなくなる。
本当はもっと悲しむべきなのかも知れない。
でも、政宗と過ごした日々があまりにも優しくて、眩しくて。
その思い出だけで十分だった。
政宗は、これ以上はないというほどに、私を慈しみ愛してくれた。
別れを目の前にしても、こうして抱き合うと相変わらず幸せで。
この思い出のために二人が出会ったのならば、それでいいと思った。
それくらい、政宗の愛に包まれて、いつでも私は幸せだった。
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