Am I only dreaming? -2-

すぅすぅと安らかな政宗の寝息を聞きながら、しばらく私は政宗の髪をゆっくりと梳いていたが、やがて、大学の課題に戻っていった。
課題は早く終わらせるに限る。

しばらく参考書とサーバ上のデータベースと睨めっこしながら、カタカタとPCを打っていた。
おおよそ調べ物が終わって、下書きが終わったところで、私はホッと一息ついた。

気づいたらCDは丁度一周していて、また、初めの曲に戻っている。

Eternal Flame。

インストゥルメンタルでアレンジされたその曲は元はとても甘いラブソングだ。
母が好きで実家でよくかけていた。

政宗の髪を梳きながら、思わず口をついて出てしまった歌。
途中でハッと気づき歌うのをやめてしまったけれど。
英語を理解する政宗なら歌詞の意味が分かってしまう。
それを口にするにはあまりにも恥ずかしかった。


Close your eyes.
Give me your hand, darling.
Do you feel my heart beating?
Do you understand?
Do you feel the same?
Am I only dreaming?
Is this burning, an eternal flame?


私は、政宗にときめいて……いる……?
だから恥ずかしかったの……?

ベッドの上の政宗の寝顔をそっと見る。
綺麗な整った顔立ちをしている。
半袖のTシャツから覗いた逞しい腕。
あの腕に抱きしめられていたのかと思うとどきどきとする。

でも、私が政宗と一緒にいて感じるのは、ときめきよりもむしろ安心感。
出会って間もないのに、政宗は、まるで無償の愛をくれるかのように、私に温もりを与えてくれる。

どんよりと曇った、厚い雨雲の隙間から顔をのぞかせた日差しのように。
私の暗く沈んだ世界に光をもたらしてくれた。


手を繋ぐたび。
抱き締められるたび。
頬に唇が触れるたび。


無数に傷ついた心の傷が一つ一つ淡雪が溶けるようになくなっていく。

もう、自然に笑うことなど出来ないと思っていた。
なのに、政宗に触れられると、微笑みかけられると、心がふわりと温かくなって。
我知らず頬が緩む。
忘れていた、生への喜びを思い出していく。

セピア色に色褪せていた単調な世界は色彩と躍動感を取り戻し。
世界とはこれほどに鮮やかで美しいものかと。
私の周りに幾重にも張り巡らされていた壁が一つずつ壊れていく。

この心の温かさは何?
これは友情?
それとも恋?

友情と呼ぶには私達はあまりにも触れ合い過ぎている。

幾度となく抱き締められ。
頬に口付けを落とし。
それに……唇を重ねたことだって……。

私が望んで口付けを交わしたわけではないけれど。
でも、不快感はなかった。
驚いただけ。
そして、恋人でもないのに唇を重ねてしまったことへの罪悪感が私を苛んだ。

政宗は……気が向いたら誰とでも口付けを交わせるの?
私達は出会って間もないのに……。


『Men always remember love because of romance only.』


政宗にとって、私はただのロマンスの一つなの……?


それはあまりにも哀しいことだから。
私はその一線を越えたくなかった。

それでも、寂しさから政宗の温もりを求めてしまう。
一線を越えられないのに求めてしまう。
それでは、戯れにキスをする政宗と変わりがない。

私はずるい。
政宗の優しさに甘えている。
たかが女一人、その気になれば力づくでも抱いてしまえるのに。
その温かな腕の中で甘えさせてくれる。

政宗の温もりを思い出すと、胸の奥が温かくなってきゅうっと疼く。
そして、たまらなく幸せな気持ちになっていく。
まるで恋のように……。

でも、これはきっと恋じゃない。
恋はこんなに穏やかじゃない。
全てを奪いつくすように。
侵食していくものだから。

政宗のことは好きだけれど。
何もかもを忘れて溺れるほどのめり込んでいない。

だから、きっとこれは恋じゃない。

それに、政宗には好きな人がいるんだから。
好き、いや、愛している人が。

昨日、花火を見る前に、少し興味があって、政宗に聞いてみたら。
政宗は余裕の笑みを消し、思案した後、薄っすらと頬を染めた。

ああ、やはり、と思うと同時に。
何故だか知らないけど。
酷く寂しかった。

政宗には政宗の世界がある。
想い人だって当然いたに違いない。

『愛なんて感じたこともねぇ』

そう言っていたけど。
それは気付いていなかっただけ。

政宗の表情を思い出す。
きっと、その人をすごく愛しているんだ。
とても優しい目をしていた。

ねぇ、政宗。
そんなに愛している人がいるのに、何故私にこんなに優しくしてくれるの?
何故優しい眼差しで私を見つめ、抱き締めてくれるの?
たかがロマンスなのに?

期待してしまう……。
政宗の、愛している人に悪いから、止めなくてはと思うのに。
政宗の温もりを手放してしまうには、私はまだ弱すぎた。
このまま政宗の温もりに溺れてしまいたかった。
私には一線を越える覚悟もないのに。
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