名前を呼ばれて我に返った。
ベッドを振り返ると、政宗はまだ眠っている様子だった。
遙……。
また名前が呼ばれる。
私はベッドに上がり、政宗の寝顔を覗き込んだ。
きりりとした眉を顰め、政宗が苦しそうに私の名を呼ぶ。
悪い夢でも見ているのだろうか?
一度起こしてあげた方がいいかも知れない。
「まさ…むね……?」
薄っすらと汗の浮かんだ額に触れ、貼りついた髪をそっとかきあげると、政宗の大きな手が私の手を握った。
その力強さに驚く。
指が食い込み、少し痛いほどだ。
「まさむ……」
言い終わらないうちに、視界はぐるりと回転した。
何が起こったのか分からなかった。
視界を微かに白い天井が過ぎったと思ったら。
次の瞬間には唇にしっとりとした柔らかいものが触れていた。
それが政宗の唇だということに気付くのにそう時間はかからなかった。
今までのように軽く触れるのではない。
重ねるというにはそれはあまりにも激しすぎた。
唇を食まれ、吸われる。
政宗の吐息は熱を帯びていて。
その吐息に眩暈を覚える。
来栖君から救ってくれた時も息が上がりそうなほど熱い口付けを交わしたけれど。
それの比ではなかった。
私の吐息を奪いつくすかのように、荒々しく唇を食まれる。
驚き、政宗から逃れようと思うのに。
次第に唇を吸われる心地よさに、身体の芯が熱くなっていく。
手首には痛いほどに政宗の長い指が絡みつき。
圧し掛かる体重に自由を奪われる。
蕩けるようなキスに、気付いたら、自分も政宗のキスに合わせるように政宗の唇を食んでいた。
このまま一線を越えてしまうの?
頭の隅で警鐘が鳴るが、自由を奪われたこの状態では、私は何も出来なかった。
言葉を発しようとしても、息をつかせぬほどに唇を奪われ、それもままならない。
押し返そうと、政宗の胸に付かれた手は、いつしかしがみつくようになっていて。
嵐のようなキスに翻弄されて。
ねぇ、政宗。
何故なの?
何故、こんなことするの?
愛している人がいるんでしょう?
私にその人を重ねて見ているの?
私はその人の代わりなの?
そう思うとやりきれなくなっていく。
これはきっと私に与えられた罰。
政宗に彼の面影を求めてしまったから。
私が政宗に彼の面影を求めてしまったように、政宗が私に想い人を重ねてしまってもおかしくはない。
きっと、愛しい人の夢を見ているんだ、政宗は。
でも、それなら何故私の名を呼んだの?
政宗の大きな手が私の脇腹をすっと撫でる。
私は息を飲んだ。
鼻にかかった甘い吐息が漏れてしまう。
政宗の手はゆったりと私の身体を撫でながら、胸の方へと上がっていく。
昨日寝たままの服装でレポートを書いていたから、ブラをつけていない。
キスだけでこんなに蕩けてしまっているのに、きっと触れられたら止まらなくなる。
お願い、政宗。
早く目を覚まして!!
やがて、荒々しく胸を揉みしだかれて、身体がびくりと跳ねた。
「んんっ!!」
政宗を止めようと、政宗の手を握り締めるのに、それでも構わず愛撫は続く。
と、唐突に唇が離れ、大きく息をついた次の瞬間には、首筋を強く吸われた。
「やぁああっ!!……はぁっ……政宗っ……!!」
淀みなく動いていた政宗の身体がびくりと跳ね、政宗の顔が首筋から離れた。
私は息を乱しながら政宗を見上げる。
政宗は信じられないというような表情で私を見下ろしていた。
「遙……?何故……?俺は……?」
私は息を整えながら答えた。
「政宗が魘されてたから……起こしてあげようと思ったら……」
政宗は唇を噛み、目を伏せた。
「寝惚けていたんだよ……ね?……きっと好きな人の夢を見て……」
政宗が目を上げ、ハッと目を瞠る。
「私、その人の代わりになってもいいけど……でも、一線は越えられないよ……ゴメン……」
「違う!!そんなんじゃねぇ!!」
政宗が急に声を荒げたので私はびくりとした。
「俺は……俺は……!!……くっ……」
政宗は何かを告げようとして、途中で止め、辛そうに顔を背けた。
遙のことが………。
そう微かに聞こえたような気がする。
でも、それは気のせいかと思えるほど小さな声で。
政宗……。
一体何を言おうとしたの……?
私のことが……?
でも、それは聞き取れないほどの小さな呟きだった。
もしかしたら、私の思い違いかも知れない。
微かに期待していた私の幻聴。
………期待して…いた?
政宗に愛されたいと……?
その優しい眼差しを、私ではない誰かにではなく。
私だけに向けて欲しいと……?
政宗に愛されたら……。
温かな力強い腕で抱き締められて。
奪いつくすように口付けられて。
甘い声で愛を囁かれて。
ありったけの愛を……。
胸の奥が甘く苦しく疼く。
私は、政宗に愛されたい…?
政宗に惹かれてるの……?
じっと政宗を見つめていると、政宗はベッドから降りた。
「悪いが隣の部屋で眠らせてもらうぜ。さっきは悪かったな」
声をかけようとするより早く、政宗は奥の部屋に消えて行った。
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