帰りに買ってきた、プリペイドの携帯電話を政宗に渡す。
政宗は、新しい玩具を手に入れた子供のように、携帯電話を弄って遊んでいた。
何度も私の携帯に戯れに電話をかけては、機械から声が聞こえることに感動して喜んでいる。
そんな政宗はとても微笑ましかった。
久しぶりに優しい時間が流れる。
綺麗に出汁巻き卵が作られていて、味噌汁、焼き魚、お浸しなどが並んでいる。
インターネットでレシピを検索して出汁巻き卵を作ったのだと言う。
ふわふわとした卵は、初めて作ったとは思えないほど美味しかった。
「あんたの課題が終わるまで、毎日食事を作ってやるよ。それくらいしか俺には手伝えねぇからな」
「政宗、ありがとう。すごく嬉しいよ」
政宗の優しさが身に染みて。
自然と頬が緩む。
政宗もフッと笑うと、手を伸ばし、そっと私の頭を撫でた。
何だか久しぶりのその感覚に、思わず目頭がじんと熱くなる。
政宗がハッとして、手を引いた。
「Sorry。嫌だったか?」
「ううん、そうじゃない」
政宗が好きだから。
もっと触れて欲しくて。
抱き締めて欲しくて。
腕の中で甘えさせて欲しくて。
でも、政宗には愛する人がいるから。
言えなかった。
もっと触れて欲しいと。
抱き締めて欲しいと。
口を開けば、懇願してしまいそうだから。
私は目を伏せてお茶を飲んだ。
それから1週間、私は政宗を避けるように、大学に通い詰めた。
政宗の姿を見ると、その温もりを焦がれてしまって。
胸の奥が切なく苦しくなるから。
衝動的に抱きついてしまいたくなるから。
政宗を困らせたくない……。
家に帰る前には政宗にメールをする。
それに、英語交じりの簡単なメールが返ってくる。
気を使っているのか、私が大学にいる間は、政宗はメールも電話もしてこなかった。
政宗の気遣いは嬉しいけれど。
同時に何だか寂しかった。
馬鹿馬鹿しい。
付き合っているわけではないのに。
一体何を話すというのか。
それでなくても、今の私達の間には微妙な空気が流れていて。
前のように楽に呼吸が出来ない。
USBメモリーカードを持って行って、朝から夜まで大学でレポートの執筆をする。
ひと段落する度に、思い浮かぶのは政宗の顔。
政宗の温もりを思い出して、恋しくて狂いそうになって。
私は溜息を吐いた。
根を詰めてレポートに取り組んでいたせいか、山のようなレポートはほとんど終わってしまった。
レポートをプリントアウトして、ファイルしていく。
このレポートが終わってしまったら、私は何を言い訳にして政宗から逃げ回らなくてはならないのだろう。
傍にいたいのに。
いつも視界に政宗の姿を捉えていたいのに。
政宗の姿を目にすると、どうしようもなく胸が高鳴って。
触れたくなって。
抱き締めたくなって。
溢れる想いが止められそうにないから。
こんなにも恋焦がれているのに。
政宗の傍にいられなかった。
また一つ溜息が零れる。
「遙、どうしたの?何か落ち込んでいるみたいだけど、政宗と何かあった?」
振り返ると、そこには美紀がいた。
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