プロローグ -5-

私の両親は医者で、実家は離れたところにある。
東京の国立大学の医学部に合格した祝いにと、2DKのマンションを私に買ってくれた。
そんな両親の期待が逆に重くて、私は大学に入ってからというもの、ほとんど実家に帰っていないが。

広々としたリビングのソファに美紀は腰を下ろすと、ほうっと溜め息をついた。

「遙の家は落ち着くね〜。あ〜あ、まだ元カレの写真を飾っているし」

私は苦笑いをして、美紀と私のためにコーヒーを淹れた。
美紀は勝手知ったる我が家とばかりにPS2に戦国BASARA2を入れた。
コーヒーを目の前に置き、私も美紀の隣に座る。
息を飲むような美しいCGに私は驚いた。
ほとんどゲームなどしなかったので、最近のゲームはここまで映像が綺麗なものかとただただ感心した。

「誰?この馬に乗っている蒼い人?ん?三日月に眼帯だから政宗様?」
「そうだよ!!で、赤いのが真田幸村ね」
「このでかい人、誰?」
「豊臣秀吉」
「ってか、ありえなくない?秀吉って猿じゃん?でかすぎ!!これじゃゴリラ…」
「あははははは!!まさに!!でも気にしない気にしない。これってそういうゲームだから」
「ふうん。この政宗、格好いいね…。流石政宗様」
「だって一番人気だもん。当然!!じゃあ、政宗ストーリーからやろうか?」
「うん、何でもいいよ。見てる」
「見てる、じゃなくて遙がやるの。はい」

美紀は私にコントローラーを押し付けた。
ストーリーモードで政宗を選択すると、「Okay. Are you ready?」
という英語のセリフが流れた。

私の心がちくりと痛む。

しばらく英語は意識して聞かないようにしていたから。

意識を無理矢理英語から離して画面に集中するとオープニング映像が始まった。
オープニング映像が終わると私は思わず溜め息をついた。

「何か、すごく格好いいんだけど…。何、あのやんちゃっぷり。そして渋い人!!流石伊達主従…。史実に違わぬ格好良さ」
「でしょー?現実の男は面倒だからさ、しばらくこれに逃避してなよ。遙には休養が必要だから」
「うん、そうする…」

私たちはそれからしばらく伊達政宗ストーリーで何度も惚れ惚れと溜め息をつきながらエンディングを迎えた。
その頃には私はもうBASARAに夢中で、普段の調子を取り戻していた。
美紀が安堵の笑みを浮かべる。

「遙ももう大丈夫だね。また様子見に来るけど、私、もう帰るわ」
「うん、ありがとう。またね!」

玄関まで美紀を見送って、私はまたBASARAをプレイした。



それからの生活は、自堕落で、両親には本当に申し訳ないほどだったけれど。
別に無駄遣いをしているわけでもないからいいか、とばかりにただゲームに没頭していた。

今頃はアメリカにいたはずなのに、という思いが頭の隅にちらつくけど。
それを打ち消すかのようにゲームに集中し、格好いいキャラに溜め息をついたり、面白おかしいストーリーに独り爆笑していた。

このゲームが終わったら、またいつもの生活に戻ろう。
このまま引き篭もるわけにもいかないから、バイトでもして…。
勉強もしよう。

だから、数日間だけでもいい。
何かに没頭して何もかも忘れていたい。

そう思いながら、ただひたすらに全てのキャラクターをクリアしていった。

そして、ストーリーを全てクリアして伊達政宗で天下統一をしようとしたとき、それは突如始まった。

政宗を選択した後、テレビの画面が真っ白になった。
そして、渦巻きのようなものが現れ、画面がめちゃくちゃに点滅する。
薄暗い部屋でテレビをつけていた私は、眩暈と吐き気に襲われ、目を閉じうずくまった。
キーーーーンというような音がして、わんわんと耳鳴りがする。

不摂生のしすぎだろうか。
PS2を酷使しすぎて壊してしまったのだろうか。

しばらく浅い呼吸で自分の身体を抱き締めていると、だんだんと眩暈と耳鳴りが治まってきた。

ホッと一息つこうとした瞬間、ガチャリという音が目の前から聞こえた。

人の気配がする!!
鍵はかけてあるし部屋の中は一人だったのに何故!?

ハッと顔を上げると、蒼い陣羽織を着て、刀を6本差した、背の高い男がいた。

見間違うこともない。
先ほどまで画面に出ていた伊達政宗だ。

目が合って、思わず固まってしまう。

何、これは何かの冗談!?

鬱になりすぎて私はついに幻覚まで見えるようになったの!?

脳裏に精神病の名前、症状、治療法がずらずらと浮かんでくる。

ああ、お父さん、お母さん。
私は不治の精神病にかかってしまったかも知れません。
病院を継ぐのは無理かも…。

政宗も戸惑っているようで、眉間に皺を寄せ、私をじっと見つめている。

その顔立ちは端整で。
きりりとした眉。
睫毛の長い切れ長の目。
すっきりと通った鼻筋。

溜め息が出るほど美しかった。

脚はすらりと長く、全身を覆う鎧の下はきっと見た目よりも結構筋肉質であることが窺える。

私が息を殺して政宗を見つめていると、先に政宗が口を開いた。

「…What the hell…?(一体何なんだ…?)」

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