だって、政宗には愛する人がいるんだから。
それでも、その優しげな視線を向けられると。
錯覚してしまう。
まるで、それが私に向けられたもののように。
今まで、史実の政宗様と別人としか思えなかったけど。
やっぱり政宗様は政宗様で。
そんな発見が嬉しくて。
憧れと想いが入り混じって、どうしようもなく惹かれて。
目が離せなくて。
政宗と視線が絡み合ったら。
どうしようもなく魅入られて。
ただのロマンスでもいいから。
もう一度触れて欲しかった。
もう一度だけ……。
政宗が戯れでも、私は本気だから。
政宗の温もりを心に刻み付けて一生忘れないように。
もう一度触れて欲しかった。
親指でそっと唇をなぞられて、思わず溜息が漏れる。
薄っすらと目を開けると、政宗は、愛しげに、切なそうに私を見つめていた。
ゆっくりと唇をなぞっていた指が名残惜しそうに離れていくと、その長い指が私の頬を滑っていき。
優しく頬に宛がわれる。
耳の後ろまで包み込むように、大きな手のひらが私の頬を包むと。
政宗が長い睫をすっと伏せて顔を近づけてきた。
何故、そんなに愛しそうに私を見るの?
私は……政宗の愛する人に似ているの?
たかが、ロマンスなのに、何故、こんなに優しいの?
そんな疑問が頭の隅を掠めたけど、このまま政宗の纏う優しい空気に包まれて。
何もかも忘れて溺れたかった。
政宗の熱い吐息が唇を掠め。
唇が触れると思った刹那、後ろからがやがやと話し声が聞こえてきた。
「あれ、まあ。こんな切通しに若者がしかもカップルで来るとはねぇ」
「はっはっは!おばちゃん達にはちょっと目の毒だねぇ」
政宗も私も思わずびくりとなり、身体を離してしまった。
おばちゃん達の冷やかすような笑いに、今更ながらに恥ずかしさが込み上げてくる。
政宗も気まずいのか、頭をぽりぽりとかいている。
「お二人さん、お幸せに!!」
おばちゃん達は、手を振りながら、鎌倉の町の方へ消えていった。
「えーっと、政宗…。私達も、車に戻ろうか?」
「あ、ああ。そうだな。若宮大路に行くか」
帰りの下りの道は、石畳が濡れていて滑りそうだから、と政宗はまた手を繋いでくれた。
それでも。
先ほどの出来事もあって、恥ずかしくて私は政宗の手をぎゅっと握ることが出来なかった。
政宗もまた、そっと指を軽く絡めるようにして手を繋いでいる。
お互いに手を握れなくて。
恥ずかしくて視線を合わせることも出来なくて。
触れた指先から想いが伝わってしまいそうな気がした。
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