朝比奈から鎌倉駅までは車ですぐの距離だ。
今は、海水浴シーズンだから海沿いの駐車場にはきっと停められない。
だから、私は、鶴岡八幡宮の傍の駐車場に車を停めた。
ここからなら、若宮大路をずっと由比ヶ浜に向かって歩いて、海沿いを散策して、長谷駅から江ノ電に乗れば腰越まですぐだ。
腰越から、予約したレストランまでは歩いて15分くらい。
折角の政宗の誕生日だから、私は少しお酒を飲むつもりでいた。
江ノ島には行かないかも知れないけど、腰越から鎌倉まで戻ってくるまでの間に酔いは覚めるはずだ。
海に入るのは車に戻ってからでもいい。
どうせ由比ヶ浜は呆れるほど人がたくさんいるから。
鶴岡八幡宮の周りは相変わらず人でごった返していた。
ふらふらと歩いていると、すぐにはぐれてしまう。
政宗はそっと私の手を取り、繋いだ。
「市でも立っているのか?すごい人だな」
「ここは年中こんな感じだよ。今は夏休みだし、特に。政宗は鶴岡八幡宮行きたい?」
政宗は少し困ったように笑った。
「Ah〜。遙が行きたいなら別に行っても構わねぇが。あまり興味はねぇな。鶴岡八幡宮って源氏の氏神様だろ?」
「うん」
「あんたは奥州藤原氏のことは知らねぇか?」
「奥州藤原氏……?あ……」
頼朝に鎌倉入りを許されなかった源義経。
鎌倉から追撃の兵が送られて、彼は奥州藤原氏を頼って、平泉に身を隠した。
そして、頼朝の兵に、義経ともども奥州藤原氏は討たれ、滅びた。
政宗様は奥州藤原氏の末裔。
名は、藤原藤次郎政宗だった。
「ごめん……。私、無神経だった……」
しゅんとうなだれると、政宗はそっと私の頭を撫でた。
「あんたが気にすることはねぇ。もう、何百年も前の話だ。奥州は栄華を取り戻す。俺の手によってな」
ニヤリと笑う政宗の笑みは自信に満ちていて。
天下人に相応しい笑みだった。
政宗様があと20年早く生まれていたら、この国の歴史は変わっていたかもしれない。
BASARAの世界ならきっと政宗は、間違いなく天下を取るだろう。
織田も、武田も、上杉も、徳川も同じ時代に生きている。
政宗の作った天下を見たかった。
どうしようもなく憧れて、政宗から視線が離せない。
「どうした?」
「ううん。政宗が作った平和な世が見たいなって思ったの」
「今だって平和な世だろ?」
「うん、そうだけど……。何でもない」
政宗は。
この世界の政宗様が天下を統一出来なかったことを知らないから。
私の口からは告げられなかった。
政宗様は副将軍の位まで上り詰めて。
ある意味天下人になったことは間違いないけれど。
それでも、政宗様が本当に欲しかった形の天下ではない。
私が言葉を探していると、政宗はフッと笑った。
「そうだな……。俺が天下を取った時に、あんたが隣りにいれば見せてやれるのにな……」
まるでプロポーズのようなその言葉に胸がどきりとする。
違う。
きっと、政宗はそんなつもりで言ってるんじゃないのに。
期待すればするほど、それが叶わなかった時のショックも大きいのに。
それに……。
政宗が天下を取った時に、隣りで微笑んでいる人が、向こうの世界で政宗の帰りを待っている。
それがどうしようもなく哀しかった。
しおりを挟む
top