そう言われて、俺は胸がどきりとした。
俺が天下を取った時、遙が隣りにいてくれれば……。
そう何度願ったことだろう。
遙を離したくない。
ずっと傍に置いて。
遙が望むなら。
もし、遙を連れ帰ることが出来るのなら。
俺は一生遙を離さない。
「そうだな……。俺が天下を取った時に、あんたが隣りにいれば見せてやれるのにな……」
そう言うと、遙はハッと顔を上げ。
薄っすらと頬を染めた後に。
何故か、哀しそうな貌をした。
痛ましいほどに。
鎌倉に来てから、遙はずっと嬉しそうに振舞っていたから。
それがどうしようもなく哀しくて。
その憂いを取り除いてやりたいのに。
俺にはどうしていいのか分からない。
俺の隣りで平和な天下を見ることが出来ないから哀しいのか。
それとも……。
この時代で、遙は愛する男と家を継ぎたいからなのか……。
それほどまでにその男を愛しているのなら、俺には到底手が届かない。
こうして隣りにいるだけで。
手を繋いでいるだけで。
どうしようもなく愛しくて。
溢れる苦しい想いを遙に告げたくて。
でも、俺は拒絶されるのが怖かった。
幼い頃、母上に拒絶された苦い思い出と重なる。
遙には拒まれたくない。
こうして隣りにいられるのなら。
この想いは届かなくても構わないから。
ずっとその気配を、温もりを感じていたかった。
「政宗。鶴岡八幡宮には入らないけど、若宮大路のつきあたりが鶴岡八幡宮だから、とりあえずそこまで行こう?」
「ああ、そうだな」
少し気まずい空気を誤魔化すように、遙は小さく笑みを浮かべた。
少し無理をしているような笑みに心が痛む。
何もしてやれない自分に腹が立って、悔しかった。
鶴岡八幡宮から二人で手を繋いで若宮大路を歩く。
最初は細い参道が、次第に広くなっていく。
「この先を真っ直ぐ歩いて行くと、由比ヶ浜。海があるんだよ」
「I see. 三方を山に囲まれて、もう一方は、海、か」
俺は鶴岡八幡宮の方を仰ぎ見た。
後ろに山が聳えている。
確かに、天然の要塞だ。
外敵の侵入を拒むのにはうってつけだろう。
その代わり、海から攻め込まれたら退路が狭い。
山に篭ってゲリラ戦を展開するか。
地の利はこちらにあるから、罠を張って守れば、敵方は相当の兵力を投入しない限り、こちらが敗れることはないかも知れない。
南に攻め下る時、鎌倉は押さえておいた方がいいかも知れない。
「Okay, thanks. 参考になった。頼朝が何故ここに幕府を置いたか、大体分かったぜ」
「本当?やっぱり政宗はすごいね。私には分からないよ。でもね、私も鎌倉は好き。鎌倉の海は何故か格別なの。仙台もいいけど」
『海』という言葉が出るたび、遙の表情が少しずつ明るくなっていく。
そんなに遙が海が好きなら。
鎌倉の海が好きなら。
もし、俺の世界に遙を浚って行ってしまえるのなら、遙のために鎌倉を攻め落としても構わないと思えた。
しおりを挟む
top