点と線 -4-

遙の後姿を見送りながら、俺は遙の表情を思い浮かべていた。
遙に笑っていて欲しくて、なるべく楽しい話をしたつもりだったが。
時折浮かべる辛そうな表情。

無理もねぇか。
遙はきっと俺に振られたと思っている。
なのに、俺が江ノ島に行きたがるから。
そこではっきりと振られると思っているに違いない。
ならば早くこの想いを打ち明けてその憂いを取り除いてやればいいのに。
遙と永遠に結ばれたいから。
これは完全に俺のegoだけれど。
どうせ結ばれるなら、夕焼けに染まる龍恋の鐘の前で結ばれたかった。

俺は席を立ち、先ほどのウェイターに歩み寄った。

「なあ。さっき言っていた龍恋の鐘って江ノ島のどこにあるんだ?」

ウェイターは軽く目を瞠った後、くすりと笑った。

「お客さん、龍恋の鐘の謂れをご存知なんですね」
「まあな」
「綺麗で可愛らしい彼女ですよね」
「まぁ、まだ俺の女じゃねぇけどな」
「ええ!?そうなんですか?すごく仲が良さそうだから、てっきり付き合っているのだとばかり思っていましたよ。彼女、すごく眩しそうに政宗さんを見つめてましたから」

遙の想いに気付いていなかったのは、俺だけなんだと改めて思い知らされたようで、俺は苦笑いをした。

「龍恋の鐘は、江ノ島の弁天様を通り越して、そのままずっと階段を上っていくと、展望台があります。展望台を通り越して岩屋洞窟方面へ更に奥へ行くと、竜宮大神があります。その左手の少し分かりにくい細い道を抜けていくとあるんですよ」
「Okay, thanks」
「あ。あともう一つだけ」

礼を言って踵を返そうとした俺をウェイターは呼び止めた。

「弁天様の前を通る時、手を繋ぐのは止めた方がいいですよ」
「何故だ?」

俺が振り返り、片眉をつり上げて訝しそうに問うと、ウェイターは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「江ノ島の弁天様は縁結びの神様なんですけど、嫉妬深くて。カップルが弁天様の前で手を繋ぐと、弁天様が嫉妬して別れさせてしまうそうですよ」
「随分と自分勝手な神様じゃねぇか」

呆れたように俺が言うと、ウェイターは声を立てて笑った。

「まあ、迷信ですけどね。でも、そんなことで別れさせられたら堪りませんよね。だから気をつけて下さい」
「Okay。世話になったな」
「いえいえ。どういたしまして」

席に戻ろうとしたところで、遙が戻ってきた。

「政宗、どうかしたの?」
「いや、何でもねぇ。礼を言っていただけだ」
「そう?そろそろ行こっか?」
「ああ」

遙が会計を済ませている間に、先ほどのウェイターを振り返ると、やつは親指をぐっと立てて俺にウィンクをした。
そして、声には出さずに唇だけで「Good luck」と言った。
俺もニヤリと笑うと、唇だけで「Thanks」と返す。

遙の会計が終わったので、俺は遙の手を引き、店の外に出た。


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