点と線 -3-

政宗が席を立った後も、私はぼんやりと江ノ島を眺めていた。
ウェイターさんが江ノ島と言った時に、政宗が少し動揺したように見えたけれど、どうしたんだろう。
私が行こうとしている龍恋の鐘は割と新しいもので、政宗の時代にはなかったはずだ。
竜を祭っている島だから、政宗と何か関係があったのだろうか。

そんなことを取りとめもなく考えているうちに、政宗は戻ってきた。
涼しい顔をして、口元を軽く綻ばせて笑っている。
その爽やかな笑みに、胸がドキリとした。

「Sorry. I didn’t mean to have you wait so long(悪ぃ。そんなに待たせるつもりじゃなかった)」
「ううん、いいよ。海眺めていたし。具合でも悪かった?」
「Ah〜、まあな。暑かっただろう?軽い暑気あたりだ」
「そうなんだ…。あまりお酒飲まない方がいいかもね」
「それとこれとは話が別だぜ」

政宗はワインクーラーからボトルを取り出すと、自分でグラスに注ごうとする。
それを私は制した。

「手酌はダメだよ。注いであげるから」

ゆっくりとワインを注ぐと、今度は政宗が私の手からボトルを取り上げた。

「あんたにも注いでやるよ」

ニヤリと笑うと、洗練された仕草でワインを注いでいく。

政宗は軽くグラスを掲げた。

「Cheers」

カツンと軽くグラスが当たり、政宗は楽しそうに微笑むと、グラスをゆっくり回してその香りを楽しんだ後に、少しずつワインを味わいながら飲んでいく。

「ねぇ、政宗。いつテイスティングの仕方覚えたの?」
「Ah〜。奥州にも南蛮からの貿易船が来てな。そこの商人に教えてもらったぜ」
「そうなんだ。すごいね」

政宗様が伊達男で多趣味なのは知っているつもりだったけれど。
実際に目の当たりにすると、どうしようもなく胸がときめいてしまう。


この私の想いは政宗に届かないというのに……。


いけない。
ここはめでたい祝いの場なんだから、沈んだ顔をしていてはいけない。
私もグラスを傾けゆっくりとワインを飲んだ。
渋さの中にほんのりと甘みがある、とても濃厚なワインだ。

「いいワインだな。今までで飲んだ中で最高だぜ」
「そう?輸送が発達しているから。ワインは生き物だから、保存する環境に気を使わないと、すぐに味が変わってしまうの」
「そうか…。俺の時代には冷蔵庫なんてないからな」

料理が運ばれて来て、私達はゆっくりと食事をしながらワインを楽しんだ。
視界の端を掠める江ノ島が気になって仕方がない。

「どうした、遙?江ノ島がどうかしたか?」
「ううん、なんでもない」

政宗に想いを告げなければ。
でも、はっきりと振られるのが怖い。

そう思うたびに、江ノ島が視界に入りやるせない気持ちになる。
政宗は私の沈んだ表情に気付いていないのか。
私が上手く隠し通せているのか。
わからないけれど。
フッと口元を綻ばせて笑った。

「後であの島に行きてぇな。後何時間かしたら、日が沈む。この海岸は南向きだから、ここからだと見えねぇが、四方を海に囲まれたあの島に行けば夕日が見られるかも知れねぇ」
「うん、そうだね」

私が何を考えているのか、きっと知らない政宗の笑顔は。
ただ眩しくて。
私が想いを告げた後でも、変わらずその笑みを私に向けてくれるのだろうか。


政宗を失いたくない……。


もし、このぬるま湯のような優しい関係が崩れてしまうのなら。
告白なんてしたくなかった。


それから、政宗は、自分の時代の話を色々と聞かせてくれた。
BASARAを一通りプレイした私は、何となくそれぞれの武将の話は分かる。
政宗はやはり話し上手で。
幾度となく私を笑わせてくれた。
時間なんてあっという間だった。

中天に輝いていた太陽が、段々とその高度を下げ。
ボトルのワインはほとんど空になっていた。


もうすぐ私は江ノ島に行かなくてはならない。
政宗に告白するために……。

胸の奥が重たく苦しくなっていく。
この想いはきっと政宗にとって迷惑なのに。
でも、私はこの想いを断ち切るためにここに来たのだから。

本当にこれでよかったの?
政宗に知られないように。
ずっと密かに想い続けていればよかったんじゃないの?

「どうした、遙?気分でも悪いか?」

政宗が長い腕を伸ばして、指先で私の頬に触れる。
かっと頬が熱くなっていくのが分かった。
でも、きっと、アルコールで紅く染まっているから、それが隠してくれる。
政宗は、あんなに飲んだのに、顔色一つ変えていない。

「大丈夫。普段あまり飲まないから、少し酔っただけ」

政宗の指がそっと私の頬の線をなぞる。
快楽にも似た、ぞくぞくとした感覚が政宗の触れたところから広がっていく。
胸が早鐘のようにドキドキと脈打ち、破裂しそうだ。


そんな風に優しくされたら期待してしまうから。
その期待を裏切られた時、とても辛いから。
だから、お願い。
そんなに優しくしないで。


私は政宗の手をそっと押しとどめた。

「ちょっと顔を洗ってくるね。少し待っててくれるかな?」
「ああ、いいぜ」

私は席を立った。
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