俺の腕の中で、幸せそうに微笑み頬を胸に寄せてくる遙はとても可愛らしくて。
遙の整った顔立ちが、蒼白い月明かりに照らされて、さらにその陰影を濃くしてその造詣の美しさが際立っている。
ずっと遙を腕の中に閉じ込めておきたい。
愛しくて。
やっと想いが通じたことが嬉しくて。
言葉に出来ないくらい幸せで。
このままずっと腕の中に閉じ込めておいたら、俺が帰るとき、遙も一緒に連れていけるのでは。
そんな思いが頭の隅をちらつく。
小道を抜けて、展望台への道へ出ると、遙はそわそわとしだした。
「ねぇ、政宗。もう、明かりもあるし、歩けるよ?」
「そうだな」
俺がそのまま無視をして歩いて行くと、遙が抗議をするように俺のシャツを引っ張る。
「ねぇ、政宗。歩けるってば」
「俺の腕の中は、嫌か?」
じっと遙の瞳を覗き込むと、遙は口ごもり困ったように俺の胸に頬を寄せる。
「嫌なわけ……ないじゃない……」
「だったらいいだろう?」
やっと手に入れた遙をひと時も離したくなくて。
やっとこうして触れられるようになったのだから、誰にも邪魔されたくなくて。
遙自身にすら邪魔されたくなくて。
遙が腕の中にいることがまだ信じられなくて。
こうして触れていないと、熱い想いが溢れ出して狂いそうだった。
だから、遙が困るのを知っていながら、わざと意地の悪いことを言ってみる。
数歩歩いたところで、また遙は俺のシャツを引っ張った。
「ねぇ、見られてるよ」
「見せ付けてやればいいじゃねぇか」
「いい大人が抱っこされて子供みたいだもの。恥ずかしいよ」
小さく消え入りそうな声で遙が言うので、俺は溜息を吐きながら遙を下ろしてやった。
「仕方がねぇな」
遙はホッとしたように笑い、そして、指を絡ませるようにして手を繋いできた。
今日はずっと遙はずっと俺にされるがままに手を繋いでいたから。
初めて自分から指を絡ませるようにして手を繋いでくれたのが酷く嬉しかった。
二人でのんびりと展望台へと向かう。
今日一日、ずっと歩き詰めだったせいか、遙の足取りは重い。
「疲れたか?さっきみたいに抱いてやろうか?」
遙は困ったように微笑んで首を横に振る。
「ううん。歩くよ。行こう」
疲れきっているだろうに。
そんなに抱かれるのが恥ずかしいのか。
遙は空元気を出して歩き出した。
そんな様子が微笑ましくて。
可愛らしくて。
思わず笑みが零れる。
最後の階段を上りきると、暗闇に光の塔が浮かび上がっていた。
「うわぁ、夜に見ると綺麗だね」
塔は光でライトアップされて、銀色に輝いていた。
展望台への入り口を抜けると、展望台までの道の両側には街路樹が並び、そこも淡いオレンジ色の光で優しくライトアップされていた。
周りを見ると、カップル達が仲睦まじく手を繋いで寄り添って歩いている。
今日、鎌倉から藤沢への道すがら、そういったカップル達が目に入ってはやるせない気持ちになっていた。
俺と遙はこうして手を繋いでいても、遙の心は他の誰かにあるとずっと思っていたから。
遙の心を手に入れて、こうして寄り添って歩けることが堪らなく嬉しくて。
溢れる想いを隠すことなく遙に注げることが嬉しくて。幸せで。
俺は遙を引き寄せ、再び腕の中に閉じ込めた。
そして、頬に、唇に、キスの雨を降らせる。
「んっ……まさむ……ぁっ……ダメ……」
「何がダメなんだ?」
抱き寄せた遙の身体から力が抜けていく。
俺の胸に縋りつくようにして息を乱している遙の瞳が艶っぽく潤んでいる。
「展望台に行けなくなっちゃう…。蕩けて立てなくなっちゃうよ……」
頬を薄っすらと染めて言う遙が堪らなく愛しくなって。
俺はまたきつく抱き締めると、その耳元に口付けた。
遙の口から甘い溜息が漏れる。
「この瞬間が永遠に続けばいいのにな」
いくら触れても足りない。
ずっと押し殺していた想いが溢れ出し。
愛しくて。
愛しくて。
それをどう遙に伝えたらいいのか分からない。
「そうだね…。でも、私、政宗と一緒に夜景を眺めたいな……」
「All right」
俺は遙から身体を離すと、再び手を繋ぎ、展望台を上っていった。
エレベーターの扉が開くと、眼前には一面の硝子の窓の向こう側に宝石を散りばめたような景色が広がっていた。
「Holy shit!!」
「うわぁ、綺麗!ねぇ、政宗!屋上に出られる階段があるよ」
「Okay, 屋上に行こうぜ」
遙がうきうきと俺の手を引くので、俺は小さく笑いながら遙の後に続いた。
螺旋階段を上って屋上に出る。
さぁっと吹いた強い海風が、遙の長い髪を巻き上げた。
南の空に、上弦の月が輝いている。
その月の蒼白い光が海に反射して、水面が幻想的に白く輝いていた。
遙は、陸の方角に面した手すりの前に行くと、そこに佇み遠くを眺めた。
俺は海風から遙を守るように後ろからそっと抱き締める。
遙が後ろを振り返ったので、軽くその唇にkissを落とすと、俺も遙と頬を寄せ合い街の明かりを眺めた。
「あの明かりの一つ一つに人が住んでるって不思議だね……」
「そうだな…」
俺の時代の明かりは、全て炎の光。
すなわち橙色。
この時代の明かりは、オレンジやら、白やら、青やら、様々な色に富んでいて。
正しく宝石のようだった。
「もし、俺がこの時代で天下を取れるのなら、この景色全てお前に独占させてやれるのにな」
そう言うと、遙は振り返り、くすくすと笑った。
「今の時代は民主主義だから、誰か一人がこの国を治めるということはないんだよ。それに……」
この景色をくれるよりも……。
私は政宗と一緒にいたい……。
こうして抱き締めていて欲しいの……。
遙が望むなら。
遙の欲しいものは何だってくれてやる。
富も、名誉も、この心も身体も全て。
遙が俺を望むのなら、いくらでもそばにいて。
飽きるほどに抱き締めてやる。
いや、遙が嫌だと言っても。
俺は、もうお前を離さない。
俺は遙の顎に手をかけ、上を向かせるとその唇を奪った。
初めは優しく重ねるように。
次第に、唇を食むように。
軽く吸い上げているうちに身体が熱くなってきて。
遙を抱き締める腕に力が篭る。
遙の甘い吐息が唇を掠め。
鼻にかかった甘い声が微かに漏れるのを聞くと、もう止まらなかった。
軽く舌で唇をそっとなぞると遙の身体から力がかくんと抜ける。
「政宗っ……ぁ……」
堪えきれないというように遙が顔を逸らし。
のけぞり露になった首筋に口付けを落とすと、遙の身体が震えた。
「ダメだよ……こんなところで……」
「誰も見ていねぇよ……」
「でも……」
遙が心配そうに辺りを見回す。
周りはカップルしかいなくて、各々の世界に浸っている。
誰も俺たちの方など見ていない。
それでも遙は居心地が悪いのか、そっと俺を押しとどめた。
そして、俺の首に両腕を回してぎゅっと抱きついた。
「政宗……好き……愛してる……」
「俺もだ、遙……」
もう一度口付けると、遙が甘い溜息を漏らした。
そして、唇を離し、潤んだ瞳で俺を見上げた。
「今日は……帰るの止めようかな……二人っきりになれるところに行こうか……?」
胸がドキリとする。
遙……。
それは……。
お前の心だけでなく……。
身体まで俺にくれると……。
そう思っていいのか……?
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