夏色 -4-

元親との間に気まずい沈黙が訪れた。
私達は見つめ合ったまま声を発する事も出来なかった。

やがて先に口を開いたのは元親だった。

「何…で……?」

元親は信じられないといった様子で私を見つめている。

「付き合ったら別れなきゃいけないもの」
「……は?」

私が呟くと、元親は理解出来ないと言うように間抜けな声を上げた。

「何で別れるんだよ!?」
「だって私付き合って長続きした事ないんだもん!ずっと幼馴染みでいたら別れないで済むのに!ずっと元親とこのままがいい!」

しばらく呆気に取られたように私を見つめていたが、やがて元親は呆れたように呟いた。

「別れなければいいじゃねぇか。って言うか、俺が別れてやらねぇよ」
「それに、元親と付き合ったら、私きっと嫉妬深くなる。幼馴染みのままだったらそんな事考えなくて済むのに!そんなの嫌!恋愛のドロドロなんて元親との間に持ち込みたくない!」
「それはお互い様だ。俺は付き合ってなくてもお前ぇの周りの男に嫉妬してる」

元親は真剣な眼差しで私を真直ぐに見つめた。

「それに…」
「まだあんのかよ!?」

私が口を開くと、元親は呆れたように、少しイラついたように声を上げた。

「付き合ったら、元親と馬鹿騒ぎ出来なくなるもん。幼馴染みの気楽さがいいんだもん!元親とずっとラブラブなテンションなんて維持出来ない!」

元親は私の顔を凝視した後深い溜め息を吐いた。

「別に付き合ったからってそんなに変わるもんじゃねぇだろ?今まで通りでいいんだよ」
「だったら幼馴染みのままでいいじゃない」

私が言い返すと、元親は私を抱き締めた。
もがいて逃れようとしても、力強い腕を振りほどく事は出来なかった。

「あのなあ…。お前ぇ自分の年齢考えた事あるか?結婚適齢期に差し掛かってんだぞ?結婚したら、いくら幼馴染みだからって俺と一緒にいられなくなるぞ?俺はお前ぇを誰にも渡したくねぇ!」

そんな事考えた事もなかった。
仕事が忙しくてそんな余裕がなかったから。
元親はいつまでもご近所で、うちに遊びに来るものだと思っていた。

元親の心配が私にそのまま重なる。
元親が他の誰かと結婚したら、私は今までのように元親とは会えなくなる。
いくら幼馴染みと言っても異性だから。
女友達とは訳が違う。

尚も私が俯いて黙り込んでいると元親が口を開いた。

「別れるのを心配してるならこう言えばいいか?…俺と結婚を前提に付き合ってくれ」
「!?」

私は驚き元親を見上げた。

「結婚したら別れなくて済むだろ?幸いお前ぇのお袋さんには気に入られてるし」
「でも……」
「何だよ」

私が歯切れ悪く言い澱むと元親は不服そうに聞き返した。

「このままの関係がいいな…。ラブラブとかじゃなくて」

元親はまた溜め息を吐いた。

「別に急にそんな事期待してねぇよ。付き合ったからって俺達が変わる訳ねぇだろ?」
「そうかなあ?」
「お前ぇが馬鹿騒ぎしたいなら今まで通りそれに付き合う。そのままのお前ぇでいいから俺と付き合ってくれ。誰にもお前ぇを渡したくねぇんだ」

元親の言葉に考える。

本当に付き合っても何も変わらないの…?
全て今まで通り…?

「それなら……今まで通りなら元親と付き合ってもいいかな…」

思わず声に出してそう呟くと、元親はやっといつも通りの爽やかな笑みを浮かべた。
そして私を抱き締める腕に力を込める。

「やっと……こうして堂々とお前ぇを抱き締められる…」

元親は本当に嬉しそうな笑みを浮かべて私の頭に顔を埋めた。

「ねぇ…。だからラブラブはまだ無理だって。前言撤回するよ?」
「悪ぃ悪ぃ」

笑いながら私をようやく解放すると、元親はシザーバッグの中を漁った。

「じゃあこの話はここまでにして、花火しようぜ」
「花火?」

元親が取り出したのは線香花火だった。
うちの縁側で二人でよく線香花火で遊んでいた事を思い出す。
元親はちゃっかり携帯灰皿とZIPPOまで持って来ている。
案外こう見えて、地球に優しいエコな男だ。


二人で久し振りに線香花火で遊ぶ。
何だか付き合い始めたのに今までと変わりがなくてホッとする。
潮風が強くてなかなか火が着かなくて悪態を吐く元親に笑ってしまった。
私が笑うと元親も笑顔を見せる。

線香花火の細い火花が儚くて綺麗だった。

二人でどちらが長く保つか競争しているうちに私はすっかりいつもの調子を取り戻していた。

「少し海に入って帰ろうぜ」
「うん、いいね!」

サンダルを脱いで、二人で海に入る。
波と戯れ、お互いに水を掛け合って大はしゃぎする。
元親がいつものように私の手を取る。
でも、それはいつものような子供の繋ぎ方ではなく、所謂恋人繋ぎ。
元親を見上げると、フッと笑いかけられた。

「このくらいいいだろ?」
「うん……」

元親の指がこんなに男らしいなんて今まで意識しなかった。
何だか急にドキドキして来る。
そんな私に気付かず元親はのんびりと笑った。

「帰ったらお前ぇのお袋さんに挨拶しねぇとな。おばさんの反応が楽しみだぜ」

すっかりあの人の事を忘れていた。
散々冷やかされて根掘り葉掘り聞かれる事間違いなしだ。

「ねぇ、やっぱり付き合うの止めようか?」
「ダメだ。お前ぇがそのつもりなら俺が先手を打つ」

元親は携帯を取り出した。

「お前ぇのお袋さんに今から連絡してやるよ」
「ちょっ、待って!止めてよ!」
「俺と別れようとするからだ、バ〜カ」

元親の携帯を取り上げようとすると、元親は素早く避け、走り出した。
追いかけるけど、脚の長い元親には到底追い付かない。

私達は結局バカップルのように浜辺で追いかけっこをしていた。


……何か、バカップルみたいだけど、あんまりいつもと変わらないな…。
やっぱり元親といるのは落ち着く。


足を止めて、荒い息を吐きながらそんな事を考えていたら、遠くで元親が電話しているのが見えた。


あいつ…!
絶対に後で絞める…!


私はまた走り出した。





今までと変わらない。
でも何かが変わった。

一つだけ変わらないのは、元親がずっと一緒にいるという事。

これからも、ずっと……。




Fin…



やっとまともにアニキ書きましたがやっぱり扱いが(笑)。
手しか握らせてもらえないなんて…哀れ。
ヒロインはMRのつもりです。
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