電話での顧客対応が一通り終わり、ホッと一息を吐く。
後は片倉部長がミーティングから帰って来たら終礼があって業務は終了だ。
一般職の女の子達はもう退社していて、同じ部署の女は私ただ一人だ。
片倉部長が帰って来るまでに、簡単な報告書を作り、スケジュールの確認をしていると、ドアが開く気配がした。
「ただ今戻りました」
凛とした、よく通る美声は片倉部長のものだ。
私はすぐに立ち上がった。他の社員も続いて立ち上がる。
私達は振り向いて深々とお辞儀をした。
「お帰りなさい」
「ああ」
そのまま片倉部長が靴音を響かせながら、自分のデスクに戻る。
そして、少し眉間に皺を寄せてチラリと鋭い視線を社員に送った。
「山田、永倉、休憩室に付き合え」
「はい!」
呼ばれた社員が慌てて部長の後を足早に追う。
永倉さんは、確か今日は商談に失敗したんだっけ。その事で搾られるのかなとぼんやりと思っていると、私の名が呼ばれ、我に返った。
私、今日、何かやらかしたっけ?
不安に駆られ、硬直して片倉部長を見つめていると、部長は少し表情を和らげて淡い笑みを口許に浮かべた。
「お前ぇ、今日は午後からずっと煙草吸ってねぇだろ?早く来い。一服したら終礼だ」
「はい!」
私はバッグの中からシガレットケースを取り出すと、慌てて片倉部長の後を追った。
休憩室に入ると、奥の椅子に片倉部長が長い脚を組んで腰掛けていた。
その隣りの椅子は空けてある。
部長が目で促すので私は慌ててその席に座り、ライターを差し出し火を点けた。
煙草を咥えた片倉部長の端正な顔が手元に近付きドキドキする。
私が煙草を吸う事が部長にバレて以来、休憩室では部長の隣りが私の定位置になった。
そして、私も社内では部長の隣りでしか煙草を吸わなくなった。
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