指定席 -3-

「申し訳ございませんでした!」

部長の怒号の向こうで、永倉さんは平伏するように頭を下げた。
永倉さんのミスで取引先を一つ失ってしまった。
それは些細なミスで、そう目くじらを立てる程のミスではなかったのに、取引先は烈火の如く怒り、クレームの電話をして来たのだった。
その取引先は今までも無理難題を押し付けてくる問題のお客様でもあった。
片倉部長は煙草をふかしたままじっと永倉さんを見つめていた。
フォローを入れるように山田主任が状況を説明する。
部長は軽く頷きながら相槌を打ち、片手をあげて謝り続ける永倉さんを制した。

「ミスはミスだ。次はないと思え」
「はい、申し訳ございませんでした!」
「だが、相手も悪い。お互いに信頼関係がないければいずれはダメになる。お前ぇにはキツい事を言ったが、もう気にするな」
「はい、申し訳ございませんでした!」
「いいか?客は確かに大切だ。だがな、もっと大切な物がある。それは社員だ。社員に致命的な手落ちがあるなら庇い切れねぇ。だが、無理難題を押し付ける顧客とは比べ物にならねぇ。俺は最後までお前ぇらを守り切る。それだけは覚えてろ」
「片倉部長!!」

永倉さんは感きわまったように片倉部長を見つめた。
私も同じ気持ちだった。
たまたま永倉さんがミスをしただけで、もしかしたらいずれは私も同じ立場になるかも知れない。
それでも片倉部長は私達を守ってくれると言ってくれた。
この気持ちをどう言い表せばいいだろう。
安堵感。心強さ。そして憧憬。
瞬きする事すら忘れて部長を見つめていると、目が合いフッと笑いかけられた。

「そんなに見つめるな。顔に穴が開く」
「す、すみません!」

勢い良く頭を下げると頭上から忍び笑いが聞こえた。

「山田、代行の手配をしろ。今から飲みに行くぞ」
「はい!」

今日の事件について話し合うのなら、自分は早く帰った方がいいだろうと踵を返すと、部長に呼び止められた。

「お前ぇは俺の隣りで酌をしろ。いいな?」

唇の端をつり上げて綺麗に笑う部長の艶っぽい笑顔に目が釘付けになる。

部長に好きな人がいる事は気付いていた。私に重ねて見ている事も。
それでも、こうして隣りにいられるだけで私は胸が苦しくなるくらい幸せだった。

そう、例え身代わりだとしても私は幸せだった。
切ないくらいに…。
ずっと傍にいたかった。


Fin…


雪の華の後のお話。Triangleルートの小十郎。
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