01. 高潔な光、優しい光

夜、ベッドで眠りに就こうとすると、ベッドに面した両開きのフランス窓が風でガタガタと揺れる。
ふと窓の外を見ると、流れの速い黒い雲の切れ間から蒼白い月が静かに光を放っていた。

冷たく蒼白い高潔な月の光。
でも見た目の印象と裏腹に、月の光は本当は優しく美しい。
儚いくらいに。

そう、まるであの人のように…。

しばらく彼の訪れを期待していたけれど、10月の気候は肌寒く、やがて私は少し残念な気持ちでベッドに潜り込んだ。

『彼』と会った事は数える程しかない。
私は一目で『彼』に惹かれてしまった。
人では持ち得ないその美貌ゆえではなく。
彼の抱えた孤独と優しさに私は気付いてしまったから。

彼は何もしない。
ただ私を訪れて、私の髪を梳きながらとりとめもない話をして、そして夜明け前に私の頬をそっと頬を撫でて愛しげに微笑みかけ、額に優しくキスをすると帰ってしまう。
血の気のない冷たい唇だけど、とても温かい気持ちの込められたキスだった。

彼はどういうつもりで私に会いに来るんだろう。
その愛しげな眼差しは私に向けられたもの?
でも私は怖くて聞けなかった。

彼に会えるだけで私は幸せだから。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、ベッドの中が温かくて心地良くて、私はまどろみ始めた。
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