窓の隙間から冷たい風が吹き込み、カーテンの翻る気配に薄っすらと目を開ける。
翻るレースのカーテンの隙間から、白い霧が部屋の中に流れ込んでくる。
その霧は蒼白い燐光を放ち、私のベッドの上を通り過ぎて、ベッドの脇で止まり、その密度が増す。
やがてそれは人の形を取ると、陽炎のようなその姿が実体へと変化していく。
翻る黒いマント。
その下に身に着けているのは漆黒の貴族の正装。
陽炎のように焦点の合わなかった隻眼が私の瞳を捉えると、鳶色の瞳に優しげな色が浮かんだ。
そして、手袋を外すと長い指先で私の頬に触れる。
「遙…会いたかった…」
「政宗…」
血の通わない冷たい指。
でも、私は政宗にこうして壊れ物を扱うかのように触れられるのが好きだった。
政宗の手を取り、頬に押し付けると、政宗は少し驚いたような、困ったような表情を浮かべる。
そしていつものように私の髪をゆっくりと梳き始めた。
政宗は吸血鬼。
巷ではバンパイアハンターがその首を狙っている。
数多の婦女子の血を啜り、冷血無比な怪物と畏れられている。
それでも政宗は出会った時から優しかった。
まるでそんな噂など事実無根のように。
「政宗は、私が心配…?」
おずおずと尋ねると、政宗は少し間を置いて、「ああ」と答えた。
「約束したからな。俺が前の男の事なんて忘れさせてやるって」
「そう…だよね…」
きっと政宗は吸血貴族の名誉にかけて、約定を果たしているだけなんだ。
そう思うと心が暗く沈んでいく。
私はこんなにも政宗に惹かれているのに…。
私が親に決められた婚約者と結婚するために、前の彼から立ち直るよう手を貸しているだけなんだ。
政宗と初めて出会った夜に言われた言葉を思い出す。
「お前が立ち直るまでそばにいてやるから。前の男なんて忘れさせてやる」
私はもう彼の事は吹っ切れている。
政宗との別れはいつ来てもおかしくない。
私は政宗との別れを想うと胸が抉られる思いだった。
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