01. Eternity

吸血鬼になったばかりの私の魔力は弱くて、陽が完全に落ちた夜になってやっと目覚める。
初めの頃は、私が目覚めるまで政宗は私をずっと抱き締めていてくれたが、数ヵ月が過ぎた頃からは、私が眠っているうちに狩りを済ませたり、私が目覚める頃にピアノやバイオリンを奏でている事が多くなった。
政宗が好んで弾いているのは、リストやパガニーニだった。
目覚める直前の微睡みの中、遠くから聞こえる優しく甘い音色に包まれるのが幸せで堪らない。
ずっとそのまま微睡んでいたい欲求に駆られながらも、私は身体を起こし、棺から出て、少し急ぎ足で螺旋階段を上って行く。
だって、早く政宗に会いたいから。

こうして私が慌てて小走りになるのを見て政宗は至極可笑しそうに笑う。
私達を別つ時の流れはもはや過去のものだから。
私達を取り巻くのは悠久の時の流れ。
私達はこれからは永遠に離れる事はないのだから。

「そんなに慌てなくても俺はどこにも行かねぇよ。俺はお前に優しい目覚めと安らかな眠りを与えたい。ただそれだけなんだ」

いつか、政宗は儚げに笑ってそう言い、優しく私を抱き締めてくれた。
それでも急いで政宗に会いに行ってしまうのは、ただ早く会いたいから。
きっと私達を別っていた時があまりにも長かったから、それを埋めるように政宗を求めてしまうのかも知れない。

回廊を進むと、段々ピアノの音が大きくなっていく。
目的の部屋に辿り着くと、私は古びた扉をそっと開けた。
グランドピアノを奏でている政宗はちらりとこちらを振り向くと、口許に優しい笑みを浮かべ、嬉しそうに目を細めた。
そして、また目を閉じ、情感豊かに旋律を奏でる。
甘い恋を連想させるその旋律は、政宗の愛情そのもののようだった。
堪らなく胸がときめいて、小走りに政宗に駆け寄ると、私はその広い背中を後ろから抱き締めた。
旋律が乱れてそして止む。
政宗の頬に自分の頬をぴったりとくっつけて抱き締めると、言い様のない幸福感と愛しさで胸がいっぱいになる。

「Good evening」
「政宗、おはよう。大好き」

そう言うと、政宗は嬉しそうに頷き、フッと笑うと、私を抱き寄せ、啄むように何度か軽くキスをすると、ギュッと私を抱き締めた。

「遙、愛してる」

毎晩繰り返される、このやり取りが愛しくて堪らない。
こんなに私を愛してくれる人を私は政宗以外に知らない。

ずっと一緒にいたい。
こうして抱き合っていたい。
切ないほどにそう願う。

そうして、その願いはいつでも叶えられた。
そして、私は、それはこれからもずっと変わらないのだと、その時は信じて疑わなかった…。
prev next
しおりを挟む
top