仄香は驚いたように、反射的に逃げようとした。
それを許さず、細い肩を抱き寄せて首筋に顔を埋めながら、ゆるゆると刺激すると、仄香は艶っぽく喉を反らして甘えたように喘いだ。
「ああん、こじゅうろっ…!!やん、何これっ!?」
「思い出さねぇか。なら、思い出すまで続けるまでだな」
やたらと艶かしく色香の漂う首筋に眩暈のような物を感じながらも、愛しくてたまらなくて少し強めのキスをすると、仄香はまた身悶えた。
こうして、俺の手の中で、欲しくて欲しくて堪らなかった仄香が、望んで俺に抱かれている。
俺の手で乱されている。
それは、今まで感じた事もないほどの愉悦の時だった。
「くぅっ…はぁっ、はぁっ、こ、こじゅうろっ!」
「何だ?」
首筋へのキスを止めないまま俺が尋ねると、仄香は喘ぎながら答えた。
「んっ…思い…出した…」
「何を思い出した?」
「小十郎にっ…ああっ…身体を愛撫されてたまらなくなってっ…、小十郎に抱いて欲しいって…っ…言った事。抱かれる条件の事もっ…。っはぁっ…私、昨日からもうっ…小十郎の彼女っ…だったんだね…ああっ!!」
完全に乱れた息の下、仄香はそう俺に告げた。
俺は、心底ホッとした。
そして、愛撫の手を止めた。
俺の女になった事を思い出してくれて、嬉しくて愛しさが募った。
でも、それで全てなのか…?
「他に覚えている事は?」
「これで全部じゃないかも知れないけど、チョコレート味のキスと、初めてイッた事。小十郎が、初めて抱かれる時はすごく痛いって言うから…。でも、私は初めては小十郎じゃないと嫌で、痛かったけど、小十郎に止めないでって言って…。小十郎は、最後まで抱いてくれた」
「そうか、全て思い出したか」
「ううっ、ごめんなさい。こんな大事な事、忘れてて。それでね、小十郎にお姫様抱っこされて、今年最初の雪を眺めたの。小十郎、ずっと優しくて、とっても幸せだった。だから、思い出せなくても、とても幸せな気持ちと、それ以外の何か気持ちいい思いが残ってたんだね…」
俺の危惧していた以上に、仄香は、昨日の事を覚えていた。
やっと安心して、俺は仄香を抱き締め、耳元で大きな安堵の吐息を吐いた。
「お前ぇが二度と思い出さねぇんじゃないかって、諦めてた。俺にとっては、憧れで、忘れられない一夜だった。お前ぇには辛い思いをさせちまったが…。仄香、お前ぇが好きだ。それこそ俺が高校生の頃からずっとだ」
「そんなに前から…?」
仄香は驚いたように目を瞠った。
「ああ、そうだ。政宗様とお前ぇが成長するまで、ずっと心に秘めてた」
「知らなかった…。小十郎はいつでも優しくて頼れる、憧れのお兄ちゃんだったよ。でも、私も小十郎も、もう大人だものね。子供のままの関係じゃいられない」
「その通りだ。昨日、お前ぇの処女を奪ったら尚更な。お前ぇが望んだ事だが、俺の願望そのものだった。いつか、俺を男として意識してくれて、その身を捧げてくれねぇかってな」
「そんな風に思ってくれてたなんて…気付かなくてごめんなさい…。でも、初めての人が小十郎で良かった。これからも、小十郎だけ…。そのままお嫁さんになるにはまだ心の準備がいるけど」
「すぐにって訳じゃねぇ。まぁ、そんなに待ってもやれねぇけどな。…どうする?飲み直すか?昨日の今日じゃ辛いだろう?」
仄香は少し悩んでおずおずと答えた。
「小十郎、明日は休みだよね?」
「ああ、そうだ」
「あのね…モーツァルトを飲みながら、小十郎にくっついて、またベッドで抱かれて、また飲んで、痛くなくなるまでずっと、小十郎とこの部屋で、気だるい夜を過ごしたいんだけど、ダメ?」
頬を染めて、そんな事を言われたら、可愛くて仕方がない。
それに、それは俺の願望そのものだった。
仄香には辛い思いをさせたくない。
少しずつ慣らして行って、悦びを教えてやりたかった。
「いいな、それ。何でまたそんな気になった?」
「だって、恋人とそんな夜を過ごすのって乙女の憧れだもん。優しい恋人とずっとくっついているのってとても幸せな事だと思うの。それに…小十郎の身体、逞しくてカッコ良くて、離れたくないもん」
「そうか…。この時期の夜は長い。お前ぇが望むなら、明日一日部屋から出なくても構わねぇ。好きなだけ甘えてろ」
そう言うと、仄香は嬉しそうに俺に抱き付いた。
俺は仄香の頭を撫でているうちに、心が穏やかになって行って、飲み直す事に決めた。
夜はまだ長いし、明日も休みだ。
明日の夜にデートに出かけてもいいし、こんなにも嬉しい休みは初めてだった。
「仄香、飲み直そう。ただし、お前ぇは控えめにな。ゆっくりタバコを吸って、気だるい夜を過ごそうぜ」
「うん!」
俺はスコッチを飲みながら、仄香はモーツァルトを飲みながら、互いに身を寄せ合い、時折甘いキスを交わしては、タバコを吸って寛いだ。
そして、仄香の望み通り、ベッドで肌を重ねては、抱き合い、またソファで寛いでは、ベッドで肌を重ねた。
仄香の痛みは、次第に薄れ、互いに快楽に身を任せ、終わった後もベッドで互いの身体に手を滑らせ、また仄香は俺に甘えるように抱き付いて、ソファでもキスを繰り返しながら、また紫煙を燻らせた。
サテンのベビードールの手触りが心地よい事も俺は初めて知った。
初めは煽られて欲望のままに抱いてしまいそうだった。
今までは、そうして来た。
こんな気だるい夜を過ごすのは初めてで、とても新鮮なのと同時に、愛しさが一層募った。
夜が明ける直前まで、俺達は、気怠く優しい、幸せな時を過ごした。
明日はどのように過ごそうか。
隣りに仄香がいると思ったら、幸せで堪らなかった。
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