旅立ち

翌朝、猿飛と美紀は、忍隊を伴って武田の屋敷へ戻って来た。
そして、俺達は、信玄の部屋に挨拶に行った。
そこには、真田幸村が控えていた。

遙にした事を思えば、まだふつふつと怒りが沸き起こりそうになったが、美紀と小十郎の制裁を思い出すと爽快な気分になり、やっと男女の機微を理解した真田幸村をこれ以上咎めるのは男らしくないと思った。
俺の好敵手だった頃の真田幸村の澄んだ瞳を見たら、わだかまりが消えて行く心地がした。

「信玄、世話になった。俺達は、江戸に戻る」
「うむ。道中、気を付けてお帰りなされ」
「Thanks」

一方の猿飛は、複雑な表情を浮かべていた。

「旦那と姫様の幸せを見守りたかったけど、俺も前に進まなきゃね」
「佐助…。俺は、お主から卒業しなくてはならぬな。俺は、結局、お主に甘えてばかりだった。お館様の下で、武田を背負う漢になるためには、お主から離れる必要がある。しかし、いつでも甲斐に訪れてくれ。時期当主として、成長して行く俺をたまには見に来て欲しい」
「ああ、もちろんそのつもりだよ、旦那。姫様を幸せにしてあげてね」
「もちろんだ」

真田幸村と猿飛は、がっちりと握手をして、ようやく猿飛は笑顔を見せた。

「期待してるからね。お館様、長い事、お世話になりました」
「佐助はよう働いてくれた。感謝する」
「それが俺の仕事であり…お館様をお慕いしておりましたから」
「うむ。嬉しい言葉よのう。これから先は、同じ気持ちで政宗公にお仕えして参れ」
「はっ!」

猿飛は、名残惜し気に信玄に頭を下げた。

「猿飛、後悔はねぇな?」
「うん…。俺、八王子の爺さんを救いたいし、黒脛組にも遙から叩き込まれた医術を伝授して、江戸の人達を救いたい。何より、政宗様と遙の幸せを見届けたいよ。もちろん、旦那と姫様の幸せもだけど。また甲斐を訪れるつもりだし」
「そうか。それがお前の選んだ道なら、心置きなく江戸に連れて行く。信玄、真田幸村、じゃあな。江戸に来たかったら、いつでも歓迎するぜ」
「政宗公の祝言の折には必ず。幸村も良いな?」
「必ずや、お館様のお供を致す所存」

俺は遙を見遣った。
遙の顔はまだ少し青ざめていた。

「遙、もう大丈夫か?」
「うん…。きっと、傷付けられた事は一生忘れられないし、いくら謝られても幸村の事を許せないかも知れない」
「遙…」
「遙殿…」

真田幸村は涙をこらえるように俯いた
遙が負った傷の事を考えれば、それは当然の事だろう。
下手したら、一生トラウマとして抱える。
遙は哀しそうな表情を浮かべた後、ふわりと笑った。

「それでも、政宗が傷を乗り越えたように、私も乗り越えなきゃ。お館様、いえ、武田信玄の娘として生きて行くのならなら尚更」

それを聞いて、信玄は薄らと涙を浮かべ、遙の手を両手で握った。

「そなたというおなごは…。誠、天晴なり!それでこそ我が娘よ!」
「父上、長らくお世話になりました」

遙は信玄の目を見つめてそう言った。
信玄は感極まったように涙を一筋流した。

「お主を苦しめたわしを父と呼んでくれるか、遙よ。そなたの祝言、この武田信玄、必ずや見届ける。さあ、政宗公と共に行くがよい」
「はい」

俺も、遙の健気な思いに泣けてきそうになって、無理矢理に笑みを浮かべた。

「信玄、遙もらって行くぜ。じゃあな。祝言には遙の父として参加してくれ」
「うむ。遙よ、政宗公と幸せになれ」
「ありがとうございます。父上、失礼致します」

俺達は、信玄の部屋を後にした。
猿飛は、何度か後ろを振り返り、意を決したように、前を向いて歩き出した。
俺は遙の手をしっかりと握り、歩いて行った。

永遠に歩いて行ける…。
これからはずっと2人で。
この胸に灯る愛の炎はたった一つ。
お前だけのEternal Flame…。


Eternal Flame 第二部 完
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