「何だって!?」
「政宗がっ!?」
胸騒ぎの理由は、やっぱりこれだったのか!!
政宗に文は間に合わなかったんだ…!!
佐助が指示を飛ばそうとした時の事だった。
別の忍がすぐそばの枝から飛び降り、佐助の前に跪いた。
「火急の知らせです!ただいま、片倉小十郎率いる騎馬隊約700騎が街道からこちらに向かっております。到着予定時間、約20分です!」
「竜の右目までだって!?しかも700騎も!?」
佐助は、本当に驚いたように目を見開いた。
小十郎まで大きな騎馬隊率いて出陣だなんて…!!
まずい、これはかなり、まずい!!
政宗は、相当、本気だ!!
下手したら本気MAX!!
いや、間違いなく本気MAX!!
大きな戦になる可能性が高い!!
戦だけは、阻止しなければ、他の大名達まで動き出して、戦国時代に戻ってしまう!!
政宗様命の軍師小十郎なら、後続部隊をどう構成するか…。
目まぐるしいスピードで、脳内に伊達軍の布陣が浮かんで行った。
政宗到着まで、4分30秒。
「佐助!!今から私の指示に従って!!」
「ええっ!?でもっ!!」
「時間がないのっ!!残り時間、あと4分30秒切った!いいから聞いて!!」
佐助の瞳が揺れて、そしてすぐに頷いた。
「まず、村人を屋内に全員退避させよ!そのまま広場中心で政宗を足止め!佐助、この村の忍の戦力は?」
「俺を入れて精鋭ばかり7人」
「分かった。先鋒3人で、小太刀で防戦。政宗に怪我は負わせるな。後続の伊達軍を刺激する!」
「よし、行け!」
佐助が目配せすると、一人の忍が走り去った。
「街道に一個小隊配備!今は疱瘡の治療に当たってない忍で構成!小十郎に事付を。ここから先は疱瘡流行中につき、入れば江戸に飛び火する。江戸に疱瘡を持ち帰りたくなくば動くなと、遙様よりの事付だ、と言う事!四半刻ほどお待ち頂きたいと。必ず私の名前を出して小十郎の部隊を阻止!」
「分かった、お前が行け!」
小十郎の事を知らせに来た忍を佐助は派遣した。
「それから、武田の屋敷に通じる道全てに、残り全部隊を配備!武田、及び、真田の斥候、及び部隊を見張れ!伊達軍の存在を隠すために撹乱せよ!近付く者があれば、これより先は疱瘡流行中と言って追い返せ!」
「ええっ!?何で!?」
佐助が驚いたように、声を上げた。
私の額に緊張と恐怖のあまり汗が浮かぶ。
「予想では、後続に伊達成実率いる少なくとも三千騎を超える伊達軍が進軍中。もしくは甲斐との国境付近の伊達領内で待機中。政宗の帰りが遅ければ、小十郎が動き出し、後続部隊に連絡が行く!」
「伊達成実まで!?しかも、三千騎も!?」
「もっと多いかも知れない。だから、政宗を四半刻以内に追い返す。武田に知れれば大きな戦になる。武田の反撃に備えて鬼庭綱元が武蔵より北から奥州に至るまでの領内、約十万超の軍勢を構成しながら、甲斐に向けて順次進軍させているはず!政宗撤退まで、武田の斥候を口封じのために殺してでも、伊達軍の存在を伏せる事!政宗さえ撤退すれば、伊達軍は引き返す!」
時計を見たら、タイムアップまで、あと2分足らず。
佐助は驚きに目を瞠ったまま呟いた。
「伊達三傑が全員動き、しかも十万超の軍勢を進軍中だなんて…君は一体…」
「時間がないっ!!佐助!全部隊に指令を!」
「あ、ああ、分かった。焔、俺の代行で紫苑に伝えて!全部隊の指揮は紫苑に取らせて!伝令が済んだら、すぐに村で俺と合流!!」
「かしこまりました。お前達は、村で伊達政宗を阻止しろ」
「かしこまりました」
焔は共の忍達と風のように去って行った。
残り、約1分!!
遠くから騎馬の駆ける足音が聞こえて来る。
それも猛スピードで!
政宗が来る!!
「佐助!先鋒で政宗を抑えられる時間の見積もりは!?」
「約3分から5分だ」
「分かった」
私の足で、あの広場まで6分くらい。
先鋒の忍じゃ時間が少しだけ足りない!
もう既に合戦の怒号が聞こえている。
懐かしい政宗の声が微かにする。
「よし、これで、最後!佐助は、この村の忍全員の指揮を取りながら時間稼ぎをして!!政宗の目的は、この私!私の到着予定時間は、6分後!その後、私が政宗の説得に当たる!」
遠くから一際大きな怒号がかすかに聞こえて来た。
「遙を今すぐ渡しやがれっ!!」
政宗の声!!
めちゃめちゃ怒り狂ってる!!
ヤバいヤバいヤバい!!!
あの雷電はHell Dragon!?
あの勢いじゃ、先鋒は、もうやられたかっ!?
「佐助、行って!何とか持ちこたえて!私が到着するまで!政宗は忍達を倒したら、すぐに村の中を全て改めてまで私を探すから、早く行って!!」
「何でっ!?君は何者!?」
「時間がない!先鋒がすでにやられた可能性大!今すぐ出陣してっ!!」
「っ…!!分かった!!すぐに来るんだよ!?焔と合流するまでキツいから、今すぐ行く!遙、伊達政宗を説得出来る?追い返せる?」
「絶対にしてみせる。私には切り札があるから!例え、私の到着が予想より遅れても、間違いなく切り札が発動して政宗を止めるはずだから、大丈夫!」
「分かった。君の策を信じるよ!じゃあねっ!!」
佐助は、林の入口まで、さっと駆け抜けると、鳥に掴まって村へ飛んで行った。
佐助の予想到着時間1分弱!
ギリギリセーフ!!
私も急がなければ!!
出来れば、切り札を使う前に、私自身で政宗を止めたい。
政宗に早く会いたい…!!
その腕で強く抱き締めて欲しい!!
説得はそれから!!
私は、袴の帯に銃を挟むと、注意深くそれでもなるべく急ぎ足で、足元を見ながら、林の中を小走りに進んで行った。
こんなに林の奥まで来なければ良かった!!
これもタイミングが悪い。
来る時は、佐助が手を取って歩いてくれたから、歩きやすかったんだ…。
マズイな、予定より2分ほど遅れそう…。
少し足を早めると、足を取られて転びそうになった。
しまった!
足を少し挫いたかも!
私は、少し足を引きずりながら、林の出口のすぐそばまで歩いて行った。
すると、木陰から、すっと人影が現れた。
「誰!?」
「遙殿、足を痛めてしまわれたか?大事ないか?」
「幸村!」
幸村は、落ち葉を踏みしめながら、私に歩み寄って、私を支えた。
「村に向かう途中で、聞き慣れぬ銃声を聞いて、何事かとこちらに向かったら、遙殿でござったか。そなたの銃でござるか?」
「うん、そう。ごめん、急がなきゃ!ねぇ、幸村も来て!!」
幸村の腕を取って歩き出そうとしたら、急に後ろから抱き締められた。
「離し…んんっ!!」
離して、と言い終わらないうちに、口と鼻を覆うように、手拭いが押し当てられた。
驚いて息をハッと呑んだら、鼻腔に何かの薬草のような香りの粉が入ってしまった。
これ、何!?
薬!?
一瞬、眩暈のようなものを感じて、慌てて息を止めた。
息を止めたままもがきながら、幸村を振りほどこうとしたけれど、ビクともしない。
もしかして、佐助の感じていた胸騒ぎってこの事!?
何で、幸村が!?
犯人教えてってあれだけお願いしたのに!!
私を殺そうとしていたのは幸村だったの!?
息を止めながらもがくと、更に息苦しくなって、辛くてたまらない。
もがきながら、銃に手を延ばすと、幸村に先に銃を取り上げられて、遠くに投げられてしまった。
「んー!!んんっ!!」
まだ息を止めたまま抵抗すると、耳元で忍び笑いが聞こえた。
「まだ、これだけ抵抗出来るとは、流石だな。すぐに薬と気付いて息を止めたか。どこまで耐えられるか見ていたい気もするが、早く楽にしてやろう」
殺される!!
そう思って思わず恐怖に身が竦んで動けなくなると、幸村は、私の着物の合わせに手を差し込んだ。
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